直近で立会外分売の実施を発表した銘柄に関して、買った場合、利益を得ることができるのか?直近の経営状況や客観的な指標、株価モメンタム等を踏まえ、総合的に分析しました。
第23回目は、東証1部から情報・通信業種のヴィッツです。
最後までお付き合いいただけるとうれしいです!
- 立会外分売とは?
新規株主を増やすことを目的として、上場会社が大株主である銀行やオーナー経営者などの保有株を小口に分けて、証券取引所の立会外で不特定多数に売り出すこと。
取引開始前など取引時間外(=立会外)に売り出されることからこのように呼ばれる。
- 立会外分売の魅力
- 前日終値より安く購入可能
- 立会外分配における買付側の購入価格は確定値段(1本値)で、分売実施日の前日終値よりディスカウントされるのが一般的。過去の例では、約3~5%のディスカウントで実施されています。(ディスカウント率は取引所の規定により最大10%)
- 買付手数料はかからない
- 立会外分売による買付は、通常の立会時間内の取引と種類が異なるため一般的に手数料はかからない。(売却時には通常の手数料が発生)
- 即日売却OK
- 立会外分売で取得した株式は、実施日(買付当日)から売却することが可能
- 前日終値より安く購入可能
- デメリット:抽選で外れることもある
- 買い申し込みが多いと、抽選ではずれて購入できないこともある。
分売の概要
実施日や株数は以下です。実施予定日は幅があり、実際の実施日と販売価格は、会社側が実施日前日に発表があります。分売数量は決まっていて、100株単位で最大300株まで購入できます。
早ければ、7/20(火)の夕刻に、会社側からの適時開示で実施日と分売価格のお知らせがありますので、チェックしてくださいね💖
分売実施日 | 2021/7/21(水)(7/20発表) |
分売数量 | 80,000株 (発行済み株数4,141,400株の約1.9%) |
分売値段 | 1,799円(7/20発表) |
ディスカウント率 | 2.8%(7/20発表) |
申込単位数量 | 100株 |
申込上限数量 | 300株 |
実施の目的 | 流通株式比率の向上を目的として、 当社株式の分布状況の改善及び流動性の向上を図る。 |
分売株数が、発行済み株数の1.9%と多くない数量です。
また、この銘柄の直近の出来高(売買が成立した株式の数量)の5日平均は300百株、25日平均は206百株ですので、流動性は低いレベルです。
どんな会社?
自動車・産業製品向けの制御ソフトウェア、リアルタイムオペレーティングシステムなどのソフトウェアプラットフォームの提供、組込セキュリティソフトの受託開発が主力の会社です。
事業内容としては、
- 組込サービス事業・・・自動車・産業製品向けの制御ソフトウェア、リアルタイムオペレーティングシステムなどのソフトウェアプラットフォーム提供、組込セキュリティなどの受託
- システムズエンジニアリング事業・・・自動車関連のシミュレーション及びモデルベース開発技術とデジタルコンシューマ機器向けの基盤技術の提案・開発・提供
- トラストシステムコンサルティング事業・・・電子機器装置の安全性を担保するために必要なコンサルティング・安全性分析支援と安全性の高いソフトウェア開発を行うためのソフトウェア開発プロセス作成の支援
- その他・・・子会社の株式会社アトリエ、株式会社ヴィッツ沖縄の事業
に分かれており、
2021年8月期3Q(2020年9月1日~2021年5月31日)の売上高構成比は、
- 組込サービス事業 54.1%
- システムズエンジニアリング事業 37.0%
- トラストシステムコンサルティング事業 6.8%
- その他 2.1%
の結果となっており、組込サービス事業が売上の半分以上を占めています。
直近の経営状況
【2021年8月期3Qの経営成績と2021年8月期の見通し】
決算期 | 売上高[百万円] (前年同期比) | 営業利益[百万円] (同) | 経常利益[百万円] (同) | 純利益[百万円] (同) |
2020年8月期3Q累計 | 1,647 | 222 | 245 | 159 |
2021年8月期3Q累計 | 1,610 (2.3%減) | 199 (10.5%減) | 214 (12.4%減) | 150 (5.8%減) |
2022年8月期通期会社予想 | 2,166 (2.6%減) | 253 (19.3%減) | 269 (18.8%減) | 186 (16.2%減) |
通期計画に対する3Qの進捗率 | 74.3% | 78.7% | 79.6% | 80.6% |
2021年8月期3Q累計では、減収減益となっており、特に利益面は2桁%の減益となりました。今期の通期見通しも2桁%の減益を見込んでいますが、それに対する進捗率は、3Q終了時点で75~80%とまずまずの進捗です。
要因としては、3Q決算発表資料によると、
新型コロナウェルス感染拡大により、主たる事業分野である自動車関連の組込ソフトウェアは継続的な影響を受けたものの、一部の顧客において回復の兆しが見えはじめており、
当社が優位性を発揮する CASE (Connected, Autonomous, Shared & Services, Electric)は、自動車技術変革のキーテクノロジーであり、自動車メーカを中心として各種開発の需要は高止まりの状況。そのため、自動運転/先進安全シミュレータ開発や組込セキュリティサービス等の先進・高付加価値な事業分野は好調に推移しました。
産業機械分野においても、需要が活発な半導体関連及び工作機械のセキュリティ対応などに関する受
注が増加しているが、他の分野の減収分を吸収しきれず、売上高は前年同期比減収となりました。
営業利益以下の各利益においては、主に売上高の減少の影響を受けたことに加え、成長事業分野として位置付けているMaaS(Mobility as a Service)関連の先行投資プロジェクト実施によるコスト増、新規顧客開拓及び新事業創生のための営業及び研究開発活動の実施により、それぞれ前年同期比減益となりました。
【セグメント別の業績】
セグメント | 売上高[百万円] (前年同期比) | 営業利益[億円] (前年同期比) |
組込サービス事業 | 870.8 (3.6%減) | 225.8 (6.1%減) |
システムズエンジニアリング事業 | 596.2 (7.0%増) | 166.8 (12.3%減) |
トラストシステムコンサルティング事業 | 110.1 (13.5%減) | 45.9 (17.1%増) |
その他 (株式会社アトリエ、株式会社ヴィッツ沖縄) | 109.4 (5.9%減) | 8.7 (28.1%減) |
<組込サービス事業>
産業機械の分野において新規顧客開拓などにより受注が増加したものの、コロナ禍の経済活動の停滞により、主要事業である自動車関連の組込ソフトウェアの受注が完全には回復していないため、前年同期比で減収減益。
<システムズエンジニアリング事業>
自動車関連のシミュレーション技術の提供が好調に推移し、売上高は前年同期比増収。
セグメント利益は、増収による利益貢献があったものの、主に成長事業分野として位置付けているMaaS関連の先行投資プロジェクト実施によるコスト増が影響し、前年同期比で減益。
<トラストシステムコンサルティング事業>
市場経済の悪化の影響を先行的に受けやすいことに伴い、受注に至るまでの期間の長期化や受注規模の縮小などの影響を受け、前年同期比で減収。
セグメント利益は、減収による影響があったものの、社内外のリソースを見直し更なるコストの削減等を図ることにより利益率を向上させ、前年同期比で増益。
<その他>
経済環境の悪化等により前年同期比で減収。
セグメント利益は、保険料や旅費等の経費削減に努めたものの、減収の影響に加え、一部の子会社において稼働率が悪化し利益率を落とした結果、前年同期比で減益。
【財政面】
自己資本比率(自己資本(総資本-他人資本)÷総資産) ×100)は、2021年8月期3Q末時点で78.5%と前期末(76.7%)から1.8ポイント上がっています。70%以上ですので、問題ないレベルです。
【今期の見通し(の会社コメント)】
今期(2021年8月期)通期の業績予想は、今回の分売発表と同時に上方修正されています。(数値は上記表のとおり)
内容としては、新型コロナウイルス感染症による売上高の減少を見込んでいましたが、下期以降、受注回復の兆しが見え始め、売上減少の影響は少しづつ解消されています。
営業利益は、従前より進めてきた研究開発の成果であるセキュリティ関連の知財販売やサービスなどの高収益案件の増加、外注を含めた人財リソースの配分見直し等による更なるコスト削減への取り組みなどにより、売上総利益率の向上に努めています。
また、研究の一部を受託による売上プロジェクトとして実施したこと等に伴い研究開発費見込みを削減した。
経常利益及び当期純利益は、上述の営業利益に係る影響の他、前回予想時には見込んでいなかった研究開発プロジェクトに係る補助金収入があったことにより、前回予想の上限値を上回る見込みとしています。
配当予想も今回の上方修正により、年間4円から6円に修正し、2円増配予定です。
株価指標
7/14(水)終値時点の数値
- 株価:1,934円
- 時価総額:80.1億円
- PER:42.1倍
PERは、同業で時価総額が近い、富士ソフト(9749) 20.1倍、イーソル(4420) 60.5倍、エクスモーション(4394) 38.0倍と比較すると、中間的な水準となっています。
- PBR:4.08倍
- 信用倍率(信用買い残÷信用売り残):325倍
- 年間配当金(会社予想):6円(年1回 8月)、年間利回り:0.3%(配当性向 13.2%)
※直近4年間の配当金と配当性向は、以下のようになっています。
決算期 | 年間配当金(円) | 配当性向(%) |
2017年8月期 | 2.75 | 5.6 |
2018年8月期 | 3 | 6.4 |
2019年8月期 | 4 | 5.7 |
2020年8月期 | 6 | 10.9 |
配当は毎年増配していますが、配当性向は10%以下とやや物足りない気がします。2019年4月に東証マザーズに上場し、2020年7月に東証1部に昇格したばかりの会社ですので、余剰資金は設備投資等に回し、成長重視ということでしょうか。
週足チャート(直近2年間):
株価は、昨年のコロナショック前の水準(1,580円)にすぐに戻し、昨年7月の東証1部昇格からしばらく出来高を伴い大きく上昇して、高値4,510円(2020/8/26)を付けています。
その後は、ずっと下落トレンドでしたが、直近では2,000円前後で落ち着いてきています。
まとめ
【業績】
自動車関連の技術革新のキーテクノロジーであるCASEやMaaSの技術を持ち、優位性はあるが、コロナ禍の影響もあってか、まだ業績に反映されていない状況。
直近の四半期(2021年8月期3Q)の業績は、回復を見せ始め、通期の業績予想を上方修正し、配当も増配を予定しており、足元では徐々に好調の兆しあり。
【株主還元】
今期の配当は、直近で2円増配したものの、年利回り0.3%と低い状況。将来性があるため、キャピタルゲインは狙える銘柄ではあるが、確かなものではない。
【流動性】
直近の出来高(売買が成立した株式の数量)5日平均は300百株、25日平均は206百株で、流動性は低いレベル。分売数量は発行済み株数の約1.9%とほどほどの数量。
【株価モメンタム】
2020年8月の高値からしばらく下落トレンドが続いていたが、直近では、2,000円近辺で落ち着いてきている。
今後は、この下落トレンドから底打ちして、上昇に転じる可能性もある。
以上のことから、
レベル(最低⭐~最高⭐⭐⭐⭐⭐) | |
業績 | ⭐⭐⭐ |
配当を含む株主還元 | ⭐⭐ |
株価モメンタム | ⭐⭐⭐ |
流動性 | ⭐⭐ |
分売数量 | ⭐⭐⭐ |
総合判定 | ⭐⭐⭐(中立) |
と判断しました。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
※株式投資の実際の売買は、自己判断、自己責任でお願いします。