こんにちは!
公募増資・売出(以下、PO)の実施を発表した銘柄に関して、POに応募して買った場合、利益を得ることができるのか?直近の経営状況や客観的な指標、株価モメンタム等を踏まえ、総合的に分析しました。
今回は、東証1部から陸運業種の西日本旅客鉄道です。
最後までお付き合いいただけるとうれしいです!
- 公募増資・売出(PO)とは?
既上場企業が新たに発行する株式(公募株式)や既に発行された株式(売出株式)を投資家に取得させることをいいます。 正確には、「PO」は「Public(公開の)Offering(売り物)」の略で、日本語では「公募」と呼ばれます。「公募」とは、「不特定かつ多数の投資家に対し、新たに発行される有価証券の取得の申込を勧誘すること」をいいます。 また、「売出」とは、「既に発行された有価証券の売付けの申込み又はその買付けの申込の勧誘のうち、均一の条件で50人以上の者を相手方として行う」ことをいい、通常は「公募」と「売出し」を合わせて「PO」と呼ばれます。 「新規公開株(IPO)」は未上場企業が直接金融市場からの資金調達や知名度・信用力の向上を目的として証券取引所に新規上場するために一般投資家に株式を取得してもらう行為であるのに対して、「公募・売出(PO)」は既に上場していて証券取引所での株式取引が行われている企業が追加の資金調達や大株主の保有株売却などを目的として一般投資家に株式を取得してもらう行為であり、「新規公開株(IPO)」と「公募・売出(PO)」の違いを簡単にいえば、実施する企業が「未上場」か「既上場」かの違いといえます。
POの概要
今回のPOは、株式の売出ではなく、公募による増資です。発行価格決定期間や受渡期日、発行数量は以下です。
ディスカウント率は、「発行価格等決定日」に決まり、その日の終値から数%です。
注意点として、どの証券会社でも購入できるわけでなく、主幹事会社(日本国内は野村證券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、SMBC日興証券)をはじめ、引受人の証券会社で購入申込可能です。
早ければ、9/13(月)の夕刻に、会社側から売出価格等のお知らせが適時開示でありますので、チェックしてくださいね💖
発行価格等決定日 | 2021年9月13日(月) |
受渡期日 (POで買った場合はこの日から売却可能) | 2021年9月21日(火) ※ただし、発行価格等決定日の5営業日後 |
公募による新株式発行の数量 | 48,545,400 株(国内一般募集:27,478,600 株、海外募集:18,319,000 株 、海外募集の海外引受会社の買取引受け:2,747,800 株(上限の株数。発行価格等決定日に決定する。) (発行済み株式数(自己株式を除く)191,204,765 株の約25.4%) |
株式売出し(オーバーアロットメント(以下、OA)による売出し)の数量 | 4,121,700 株(公募による新株発行と株式の売出しの合計株数の約8.5%(実施決定 9/13)) ※上記の「発行価格等決定日」に決定。野村證券が売出す。 |
発行価格 | 4,996 円 |
ディスカウント率 | 3.01% |
申込単位数量 | 100株 |
新株式発行の目的 | 当社グループは、2期連続で大幅な損失を計上する見込みとなっており、足元においても新型コロナウイルス感染症の影響により非常に厳しい経営環境が続いている。今年度も 1,600 億円の社債発行やコミットメントラインの設定等、当面の事業運営に必要な資金は十分に確保しているが、 今後も鉄道を中心とした交通サービスをしっかりと安全を守りながら提供する社会的使命を果たし続け、また当社がこれまで描いてきた地域共生によるまちづくりや観光需要創出などの成長戦略を進めていくため、更には新型コロナウイルス感染症により変化する経営環境への対応力を高めていくためには、早期に財務体質の改善を図ることが必要と考え、本件資本調達を決断した。 本件にて調達した資金は、中長期的な成長原資として、 ・コスト構造改革に向けた鉄道オペレーションの生産性向上 ・広域鉄道ネットワーク磨き上げに向けた車両新製 ・地域共生の実現に向けたまちづくり、変化対応力向上に向けたJR西日本グループデジタル戦略推進に係る設備投資資金の一部(大阪駅西側エリア開発、広島駅ビル開発) ・リスク耐性を高める強固な財務基盤の維持・強化に向けた長期債務の返済資金の一部 に充当予定。 |
主幹事会社 | 野村證券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、SMBC日興証券 |
公募による新株発行の株数は、 発行済み株式数(自己株式を除く)の約25.4% (OAを含めた最大の株数を含めると約27.5%)と、既存株数の1/4程度とかなり多い数量です。
また、この銘柄の直近の出来高(売買が成立した株の数量)の5日平均は33,393百株、25日平均は15,852百株と流動性はかなり高いレベルです。
今回の公募増資は、
コロナ禍で、鉄道各社は業績が苦しい中、2期連続で大幅赤字になる見込みということで、苦渋の決断であることは間違いありません。
ただ、既存株数の1/4の増資ということでの規模が大きいですので、これだけの増資を公共インフラを支えるという点では大義がありますが、投資家の理解を得られるのか?ということもあると思います。
どんな会社?
皆さんご存知の、北陸、近畿、中国地方と九州北部(山陽新幹線、博多南線のみ)でJRを運営する鉄道会社です。
事業セグメントは、以下の4つに分かれています。
- 運輸業・・・山陽新幹線(新大阪ー博多間)、近畿圏の在来線、金沢・岡山・広島など近畿圏以外の在来線
- 流通業・・・駅構内のキヨスクやコンビニエンスストアなどの物販飲食業、「ジェイアール京都伊勢丹」等を運営する百貨店業等を展開
- 不動産業・・・大阪駅の「LUCUA osaka」をはじめとするショッピングセンターや駅ビルの運営、駅周辺及び鉄道高架下における商業施設開発及びマンション分譲等を展開
- その他・・・鉄道事業と相乗効果の高いホテル業や旅行業、建設工事業などを展開
2021年3月期通期のセグメント別売上高構成比は、
- 運輸業 53.1%
- 流通業 15.9%
- 不動産業 16.2%
- その他 14.8%
となっており、運輸業(鉄道)が5割以上を占めています。
直近の経営概況
【2022年3月期1Q(2021年4月~2021年6月)の経営成績】(2021年7月30日発表)
決算期 | 売上高 [億円] (前年同期比) | 営業利益 [億円] (同) | 経常利益 [億円] (同) | 親会社の所有者に 帰属する純利益 [億円] (同) |
2021年3月期1Q累計 | 1,846 | △943 | △998 | △768 |
2022年3月期1Q累計 | 2,020 (9.4%増) | △494 (ー) | △515 (ー) | △321 (ー) |
2022年3月期通期会社予想 | 10,520 ~10,890 (14.3 ~18.4%増) | △1,290 ~△940 (ー) | △141,500 ~△106,500 (ー) | △116,500 ~△81,500 (ー) |
通期予想に対する1Qの進捗率 | 18.5~19.2% | ー | ー | ー |
2022年3月期1Qの業績は、前年同期比増収で、利益面は赤字ですが赤字幅を縮小しています。
現状では、コロナ禍からの業績回復にはまだほど遠い状況です。
【2022年3月期1Qの状況、経営成績の要因】
当1Q期間においては、新型コロナウイルス感染症の影響により、当社グループの事業についても、観光の利用減、出張の抑制等の出控えや消費の減退等、引き続き非常に厳しい状況でした。
当社グループは、このような極めて厳しい状況の中、鉄道の安全確保及びお客様、社員の新型コロナウイルス感染防止対策の着実な実施をはじめ、リスク管理体制の整備・運用に継続して努めるとともに、不急の施策の見送りや先送りによるコスト節減を引き続き実施し、
今後も、お客様に安全に、安心してご利用いただくための取り組みをグループ全体で推進するとともに、新たなお客様ニーズを踏まえた価値の提供等によるご利用促進や新たな需要創出を図っていくとのことです。
セグメント別の業績は表2になっています。
セグメント | 売上高[億円] (前年同期比) | 営業利益[億円] (前年同期比) |
運輸 | 1,108(34.0%増) | △474(ー) |
流通 | 258(43.0%増) | △38(ー) |
不動産 | 326(12.5%増) | 83(26.9%増) |
その他 | 326(40.4%減) | △70(ー) |
「運輸業」「流通業」は、売上高は前年同期比で伸びていますが、赤字になっています。
「不動産業」は、唯一利益が黒字で、利益面は3割弱伸びており好調です。
<運輸業>
新型コロナウイルス感染症の影響による厳しい状況下においても、最重要課題である鉄道の安全については、「安全考動計画2022」を着実に推進し、より高いレベルの安全をめざしています。
また、各エリアの状況に応じた需要回復策、行動様式やお客様の意識の変化をとらえた新たな施策の展開に取り組んでいます。
新型コロナウイルス感染症の影響の反動により、利用が増加したことから売上は増加していますが、依然営業損失の状態です。
<流通業>
物販飲食業は、コンビニエンスストアや本年3月に開業した「エキマルシェ新大阪 Sotoe」の寄与等により、
また、百貨店業において、生活必需品や食品フロア等、一部で営業を継続したこと等により売上は前期比4割増でしたが、利益はマイナスの状態です。
<不動産業>
不動産販売・賃貸業において、都心部にアクセスが良い郊外のマンションの販売が好調であったこと等により、
また、ショッピングセンター業において、前年同期に比べ休業措置が緩和されたこと等により、増収増益となりました。
<その他>
新型コロナウイルス感染症の影響により、旅行業等で低調な状況が続きました。
【財政面の状況】
自己資本比率(自己資本(総資本-他人資本)÷総資産) ×100)は、2022年3月期1Q末時点で22.9%と前期末(24.5%)から1.6ポイント減少しました。
数値としてはギリギリ問題ないレベル(20%以上を安全圏としています。)と判断します。なお、今回の公募増資により、自己資本比率が向上する予定です。
【今期の見通し】
今1Qの決算発表と同時に、2022年3月期通期予想を修正しています。通期予想は表3になっています。
売上高 [億円] | 営業利益 [億円] | 経常利益 [億円] | 当期純利益 [億円] | 1 株当たり 当期純利益 [円] | |
前回発表予想 | 12,575 | 120 | △50 | 30 | 15.69 |
今回修正予想 | 10,520 ~10,890 | △1,290 ~△940 | △1,415 ~△1,065 | △1,165 ~△815 | △609.29 ~△426.24 |
増減額 | △2,055 ~△1,685 | △1,410 ~△1,060 | △1,365 ~△1,015 | △1,195 ~△845 | △624.98 ~△441.93 |
増減率 | △16.3 ~△13.4 | ー | ー | ー | ー |
売上高、利益面共に、当初計画より下方修正しており、営業利益は黒字を見込んでいたものが赤字に修正されています。
修正の理由は、
2021 年4月 30 日に開示した通期業績予想発表時点においては、新型コロナウイルス感染症の収束時期が不透明であるものの、一定の前提を置いて収益の回復を見込み、更なる経費節減を行うことを前提として業績予想を算定していました。
しかしながら、新型コロナウイルス感染症の影響の長期化に伴い、運輸収入の大幅な減少を見込まざるを得ないことを踏まえ、通期の売上高、営業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益がいずれも期首の想定を下回る見通しとなっています。
株価指標
【9/2(木)終値時点の数値】
- 株価:5,208円
- 時価総額:9,965億円
- PER:0倍
PERは、同業で時価総額が近い、JR東日本(9020) 163倍、JR東海(9022) 203倍、阪急阪神HLDGS(9042) 67.1倍となっており、同業他社は、軒並みPERが高くなっています。
- PBR:1.16倍
- 信用倍率(信用買い残÷信用売り残):9.81倍
- 年間配当金(予想):100円(年2回 9月 50円、3月 50円)、年間利回り:1.9%(配当性向 ー(赤字))
配当年利回りは、東証1部単純平均の1.82%(9/1時点) と比較すると、平均程度です。
直近5年間の配当金と配当性向は、表4のようになっています。
決算期 | 年間配当金(円) | 配当性向(%) |
2017年3月期 | 140 | 26.7 |
2018年3月期 | 160 | 28.0 |
2019年3月期 | 175 | 32.8 |
2020年3月期 | 182.5 | 39.1 |
2021年3月期 | 100 | ー(赤字) |
前々期(2020年3月期)までは連続増配していましたが、前期(2021年3月期) は赤字だったということもあり減配されています。
配当性向は、20~40%とほぼ安定しています。
当社は、長期安定的な株主還元を行うことが重要と考え、
2020年10月に公表した「JR 西日本グループ中期経営計画2022見直し」において、長期安定的な配当を基本方針とし、2022年度において配当性向35%程度をめざすこととにしています。
【株主優待】
この会社は、株主優待制度があり、3月末に100株以上保有の株主に、「運賃・料金割引券」をはじめ、ホテルの宿泊優待券等以下のものをいただけます。
- 片道お一人様の運賃・料金が50%割引の株主優待鉄道割引券(3単元(300株)以上保有し、かつ、1単元でも継続して3年以上保有の株主様に、発行枚数を追加。)
- 最大お二人様までの入館料金が50%割引の京都鉄道博物館入館割引券
- JR西日本グループ会社でご利用いただけるJR西日本グループ株主優待割引券
配当金+株主優待(10,000円相当として換算)の年利回りは3.8%になります。こちらはうれしいですね🥰
【直近の株価動向】
<週足チャート(直近2年間)>
株価は、昨年8月に安値(4,410円)を付けた後、上昇基調で推移していましたが、その後は5,500~7,000円のレンジ内でもみ合っています。
<日足チャート(直近3か月間)>
直近の株価は、6/9につけた高値(7,000円)から下落トレンドで推移しています。
そして、この公募増資が発表された翌営業日(9/2)に、1株当たりの価値の希薄化を嫌気され、出来高を伴い大幅に下げました(-13.4%)。
直近の下値は見えない状態なので、どこまで下げがるのか不安な状態です。節目の5,000円程度が目途でしょうか。
まとめ
【業績】
- 今期1Q(2021年4月~2021年6月)の業績は、前年同期比で増収で、黒字転換まではいっていないが、赤字幅は縮小している。
- 今期1Qの決算発表と同時に、今期の通期予想を、新型コロナウイルス感染症の影響の長期化に伴い、運輸収入の大幅な減少を見込まざるを得ないということで、当初、営業利益は黒字化を見込んでいたものを赤字に下方修正している。
- 業態は、鉄道、物販飲食店業、百貨店業がメインであり、もっとも新型コロナウイルス感染症の影響を受けるため、なかなか先が見通せない状況。
【株主還元】
- 配当は年利回り1.9%と、東証1部の単純平均1.82%(9/1時点) と比較して、平均程度。
- 株主優待制度があり、運賃・料金が50%割引の「株主優待鉄道割引券」などがいただけ、配当金と合わせると年利回り3.9%にもなる。特に、JR西日本管内で居住される方はうれしい内容。
【流動性・売出数量】
- 直近の出来高(売買が成立した株式の数量)の5日平均は33,393百株、25日平均は15,852百株と流動性は十分ある。
- 今回の公募増資の合計数量は、発行済み株式数(自己株式を除く)の約25.4% (OAを含めた最大の株数を含めると約27.5%)と、既存株数の1/4もあり極端に多い数量。
- この会社は、公共インフラとして重要な役割を担っており、公募増資の理由として、鉄道オペレーションの生産性向上や財務体質の強化が目的であることは理解できるが、今回の増資で赤字の止血や業績の拡大に寄与できるのか、不透明な部分がある。事業ポートフォリオの見直しや新規事業の着手など、今までの延長線だけでなく抜本的な施策が必要という印象。
【株価モメンタム】
- 週足レベルでは、5,500~7,000円のレンジでもみ合っていた。
- しかしながら、今回の公募増資を発表後、このレンジを下抜けた。今後、節目の5,000円を下抜けると更なる下押しの可能性あり。
以上のことから、
レベル(最低⭐~最高⭐⭐⭐⭐⭐) | |
業績 | ⭐⭐ |
配当、株主優待を含む株主還元 | ⭐⭐⭐⭐ |
株価モメンタム | ⭐⭐ |
流動性 | ⭐⭐⭐⭐⭐ |
公募増資数量 | ⭐ |
総合判定 | ⭐⭐⭐(中立) |
と判断しました。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
※株式投資の実際の売買は、自己判断、自己責任でお願いします。