こんにちは!
公募増資・売出(以下、PO)の実施を発表した銘柄に関して、POに応募して買った場合、利益を得ることができるのか?直近の経営状況や客観的な指標、株価モメンタム等を踏まえ、総合的に分析しました。
最後までお付き合いいただけるとうれしいです!
- 公募増資・売出(PO)とは?
既上場企業が新たに発行する株式(公募株式)や既に発行された株式(売出株式)を投資家に取得させることをいいます。
正確には、「PO」は「Public(公開の)Offering(売り物)」の略で、日本語では「公募」と呼ばれます。「公募」とは、「不特定かつ多数の投資家に対し、新たに発行される有価証券の取得の申込を勧誘すること」をいいます。
また、「売出」とは、「既に発行された有価証券の売付けの申込み又はその買付けの申込の勧誘のうち、均一の条件で50人以上の者を相手方として行う」ことをいい、通常は「公募」と「売出し」を合わせて「PO」と呼ばれます。
「新規公開株(IPO)」は未上場企業が直接金融市場からの資金調達や知名度・信用力の向上を目的として証券取引所に新規上場するために一般投資家に株式を取得してもらう行為であるのに対して、「公募・売出(PO)」は既に上場していて証券取引所での株式取引が行われている企業が追加の資金調達や大株主の保有株売却などを目的として一般投資家に株式を取得してもらう行為であり、「新規公開株(IPO)」と「公募・売出(PO)」の違いを簡単にいえば、実施する企業が「未上場」か「既上場」かの違いといえます。
今回は、東証1部から不動産業種のジェイ・エス・ビーです。
POの概要
今回のPOは、公募による新株の発行と売出の両方が行われます。売出価格決定期間や受渡期日、売出数量は以下です。
ただし、どの証券会社でも購入できるわけでなく、主幹事会社(今回は、三菱UFJモルガン・スタンレー証券)をはじめ、引受人の証券会社で購入申込可能です。
早ければ、8/4(水)の夕刻に、会社側からの売出価格等のお知らせが適時開示でありますので、チェックしてくださいね💖
売出価格等決定日 | 2021 年8月4日(水) |
受渡期日 | 2021 年8月 12 日(木)(8/4(火)決定) |
公募による新株式発行 | 900,000 株 (発行済み株数 9,808,200株の約9.2%) |
売出数量 | 144,000 株 (発行済み株数 9,808,200株の約1.5%) |
売出数量(オーバーアロットメント(以下、OA)による) | 156,000 株(新株発行と売出数量合計株数の約14.9%) ※実施決定しました。(8/4(水)発表) 三菱UFJモルガン・スタンレー証券が売出す。 |
発行価格 | 3,540 円 (8/4(火)決定) |
ディスカウント率 | 3.01% (8/4(火)決定) |
申込株数単位 | 100株 |
実施の目的 | 新株式発行による調達資金を中期経営計画で予定されているこれらの設備投資に充当し、当社グループの事業領域の拡大及び変化し続ける経営環境への順応を図るとともに、成長投資の加速によりさらなる企業価値の向上を目指す。 また、上記新株式発行と同時に当社株式の売出しを実施することにより、当社株式の投資家層の拡大及び市場に流通する株式の増加による流動性の向上を図る。 |
主幹事会社 | 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 |
公募による新株発行と売出の合計数量は、発行済み株数の約10.8%(並行第三者割当増資とOAを含めると最大12.2%)とかなりの数量になっています。
また、この銘柄の直近の出来高(売買が成立した投資口の数量)の5日平均は2,551百株、25日平均は621百株です。流動性は少し低いレベルです。
どんな会社?
主に学生を対象としたマンションの企画提案、竣工後の建物の賃貸運営及び管理業務等の不動産賃貸管理事業をしている会社です。
2011年には、学生マンション事業で培われたノウハウを活かし高齢者住宅事業に参入、学生マンション事業に加え、長期的な成長を支える事業領域の主軸と位置づけ展開しています。
事業セグメントは、「不動産賃貸管理事業」「高齢者住宅事業」「その他」(不動産販売事業、学生支援サービス及び日本語学校事業等)に分かれています。
2021年10月期2Q(2020年11月~2021年4月)のセグメント別売上高構成比は、
- 不動産賃貸管理事業 94.2%
- 高齢者住宅事業 4.9%
- その他 0.9%
となっており、9割以上は不動産賃貸管理事業が占めています。
直近の経営状況
【2021年10月期2Q(2020年11月~2021年4月)累計の経営成績】
決算期 | 売上高[百万円] (前年同期比) | 営業利益[百万円] (同) | 経常利益[百万円] (同) | 親会社株主に帰属する 純利益[百万円] (同) |
2020年10月期2Q累計 | 25,834 | 4,037 | 3,964 | 2,654 |
2021年10月期2Q累計 | 28,551 (10.5%増) | 4,658 (15.4%増) | 4,611 (16.3%増) | 3,071 (15.7%増) |
2021年10月期通期会社予想 | 52,404 (9.0%増) | 4,824 (11.2%増) | 4,728 (11.3%増) | 3,154 (14.2%増) |
通期計画に対する2Qの進捗率 | 54.5% | 96.6% | 97.5% | 97.4% |
2021年10月期2Qの業績は前期比増収増益で、売上、利益ともに10数%上回っており好調でした。
通期計画に対する進捗率は、特に利益面は2Q時点で9割以上に到達しています。この2Q決算発表と同時に通期業績を上方修正していまして、このままの進捗でいくと、その数字に対しても再度上方修正がありうる状況です。
2021年10月期2Q累計期間の状況や経営成績の要因は、
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響が懸念される運営環境を背景に、感染防止策を徹底した上での募集活動の実施、オンラインを通じた非対面での営業活動の推進など、従来の営業スタイルとは異なる顧客へのアプローチを実践していました。
こうした取り組みの効果もあり、従来の増収ペースを崩すことなく、物件管理戸数では当初計画を上回り、当社グループの収益基盤の底上げに繋ったことに加え、当初計画策定時に最も懸念していた4月時点での入居率におきましても、前年以上の高水準を確保しました。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響から、今後の当社グループの経営成績にとって予期しない下降圧力が発生するリスクは今後も引き続き想定されることから、その動向を継続して注視していくとともに、計数等の管理につきましても慎重に進めるとのこと。
なお、当社グループの主力事業である不動産賃貸管理事業において、賃貸入居需要の繁忙期である2Q会計期間に新規契約件数が増加することから、経営成績は季節的に変動し、売上高は上期、特に2Q会計期間の割合が大きくなっています。営業利益もこの期間に偏在する傾向がありますので、通期予想の95%超の進捗率となっている一因です。
セグメント別では、
事業 | 売上高[百万円] (前年同期比) | セグメント利益[百万円] (前年同期比) |
不動産賃貸管理 | 26,907(10.8%増) | 5,169(13.4%増) |
高齢者住宅 | 1,399(6.1%増) | 213(34.9%増) |
その他 | 244(10.6%増) | △86(△22百万) |
の結果でした。
<不動産賃貸管理事業>
物件管理戸数は順調に増加しました。(前年同期比3,462戸増 75,946戸)
入居率についてはコロナ禍における学生や大学等教育機関の動向を考慮の上、全国各エリアにおける低下を見込んでいましたが、非対面を中心とした営業戦略へシフトすることで、計画上の下落幅を補うかたちとなり、前年同期99.8%から0.1ポイントの増加となりました。(99.9%)
費用面では人員数の増加による人件費の増加はあったものの、刷新本稼働から3期目を迎える基幹システム運用の定着と、非対面を中心とした営業戦略による一定の効率化が図り、一般管理費等固定費の縮減が進み営業利益率の向上に繋がりました。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響については、前連結会計年度に引き続き、当2Q累計期間において、経営成績への直接的な影響はありません。
<高齢者住宅事業>
各高齢者施設の稼働状況は概ね計画通りの進捗となっています。
また、地域課題を解決するプラットフォームを目指す事業コンセプトのもと、急速に進む高齢化社会で増加する空き家問題の解決の推進として、不動産事業を全国で展開するハウスドゥグループの株式会社ピーエムドゥと業務提携を行い、高齢者の住まいを対象に、ご自宅の売却・利活用の支援への取り組みを開始しました。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響については、不動産賃貸管理事業と同様に、経営成績への大きな影響はありません。
<その他>
採用関連事業では合説、就活セミナーをWEB開催中心に進めています。今後はグループ会社のスタイルガーデン社と連携し、グループシナジーの発揮に注力するとのこと。
日本語学校事業では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を引き続き受けることとなり、入国制限による待機留学生の発生等、受け入れ時期の遅延が継続しています。
新規事業分野では、前連結会計年度において子会社化した事業会社のM&A後の統合効果を最大化するため、引き続き統合プロセスを中心に進めてきました。
また、学生支援活動として、プロサッカー選手の本田圭佑氏が公式アンバサダーを務めるNext Connect株式会社が主催する学生支援イベントの公式冠スポンサーに就任するなど、若者の将来の活躍を目指した取り組みも進めています。
【財政面の状況】
自己資本比率(自己資本(総資本-他人資本)÷総資産) ×100)は、2021年10月期2Q末時点で40.7%と前期末(42.7%)から2.0ポイント下がっていますが、問題ないレベルです。(20%以上を問題なしとしています。)
2021年10月期2Q累計のキャッシュ・フロー(以下、CF)の状況は、営業活動によるCF 43.7億円の収入、投資活動によるCF 41.8億円の支出の結果、営業活動によるCFと投資活動によるCFを合計したフリーCF※は1.9億円のプラスとなりました。
※フリー・キャッシュ・フロー:プラスの場合、会社が使える資金があることを意味し、マイナスの場合、会社が自由に使うことができる資金が少ないことを意味する。
前期(2020年10月期)2Q末のフリーCF(プラス7.9億円)から6.1億円減っていますが、フリーCFがプラスとなっており、営業CFの流入で投資CFの支出を賄えているので問題ないでしょう。
【今期の見通し】
今2Q決算発表と同時に、通期業績予想の上方修正を発表しています。
修正の理由は、
不動産賃貸管理事業における、前連結会計年度に策定した計画では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大影響による、学生の動向や大学等教育機関の動向を考慮の上、全国各エリアにおいて一定の入居率の低下を見込んでいました。
しかしながら、賃貸入居需要の繁忙期である2Q(2021年2月~4月)における足元での入居状況は一転し前年以上の水準を確保し、当初計画を上回る見込みとなったためです。
株価指標
7/27(火)終値時点の数値
- 株価:3,880円
- 時価総額:380.4億円
- PER:12.0倍
PERは、同業で時価総額が近い、毎日コムネット(8908) 13.8倍、共立メンテナンス(9616) 91.6倍、日本管理センター(3276) 14.9倍と比較すると、低い水準になっています。
- PBR:1.86倍
- 信用倍率(信用買い残÷信用売り残):2.65倍
- 年間配当金(会社予想):30円(年1回 10月)、年間利回り:0.8%(配当性向 9.1%)
※直近4年間の配当金と配当性向は、以下のようになっています。
決算期 | 年間配当金(円) | 配当性向(%) |
2017年10月期 | 18.5 | 13.1 |
2018年10月期 | 20 | 10.1 |
2019年10月期 | 27.5 | 12.3 |
2020年10月期 | 34 | 12.7 |
配当は、直近では連続増配でしたが、今期は4円減配予想です。前期まで連続増配でしたので、今期も業績次第では予想より増配される可能性もあるのではと予想しています。
配当性向は、約10数%となっており安定しています。
会社の基本方針は、
安定的かつ継続的な配当と業績に応じた利益還元の両⽴を重視し、連結総還元性向20%を⽬標に毎期の配当額を決定する。
としています。
直近では、2020年12月~2021年4月まで、自社株買いを実施で、88,700株(発行済み株数の0.9%、取得価額の総額:約3億円)を市場買い付けしています。こちらも株主還元の一環です。
【直近の株価動向】
週足チャート(直近2年間):
株価は、昨年のコロナショックから一貫して右肩上がりの上昇基調を続けており、あまり下げる気配がありません。
日足チャート(直近3か月間):
本日(7/27)は、昨日のPO実施の発表を受けて10%ほど、いつもの100倍ほどの大きな出来高を伴い下げています。
今後は短期的な需給悪化懸念から下げる可能性がありますが、この1年以上継続している上昇基調が崩れるのかどうかがポイントでしょうか。
まとめ
【業績】
今期2Q(2020年11月~2021年5月)累計の経営成績は前期比で増収増益で、売上、利益ともに2桁%の増益の結果となっており好調。
今期通期の業績予想は、今2Qにおける足元での賃貸物件の入居状況は、一転して前年以上の水準を確保して上方修正しており、この上方修正した予想の利益に対し既に95%以上到達している状況から、さらなる上方修正もありうる。
【株主還元】
配当は年利回り0.8%と、東証1部の単純平均(7/26時点:1.80%)と比較して低い水準。
しかしながら、前期まで連続増配を続けており、今期は減配の予想ではあるが、今期の業績がこのまま好調で推移すれば、予想金額から上乗せの余地あり。
今期はさらに、2020年12月~2021年4月まで、88,700株(発行済み株数の0.9%、取得価額の総額:3億円)の自社株買いを実施している。
【流動性・売出数量】
直近の出来高(売買が成立した株式の数量)の5日平均は2,551百株、25日平均は621百株と流動性は少し低いレベル。
公募による新株発行と売出の合計数量は、発行済み株数の約10.8%(並行第三者割当増資とOAを含めると最大12.2%)とかなり多い数量。
【株価モメンタム】
週足では、コロナショック以降現時点まで1年以上ずっと上昇基調で推移している。
今回の公募による新株発行と売出を発表した翌営業日(7/27)に、前日比で10%近く下げた。
しばらくは短期的な需給悪化懸念から下げる可能性は高いが、今後、この上昇トレンドが崩れるか否かがポイント。
以上のことから、
レベル(最低⭐~最高⭐⭐⭐⭐⭐) | |
業績 | ⭐⭐⭐⭐ |
配当を含む株主還元 | ⭐⭐⭐ |
株価モメンタム | ⭐⭐⭐⭐ |
流動性 | ⭐⭐⭐ |
売出数量 | ⭐⭐ |
総合判定 | ⭐⭐⭐⭐(買い) |
と判断しました。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
※株式投資の実際の売買は、自己判断、自己責任でお願いします。