きよりん堅実投資

【自社株買いは買いか?】双日(2768)

直近で自己株式の取得を発表した銘柄に関して、この発表のタイミングで株を買った場合、利益を得ることができるのか?

足元の経営状況や客観的な指標、株価モメンタム等を踏まえ、総合的に分析しました。

今回は、東証プライムから卸売業種の双日です。

最後までお付き合いいただけるとうれしいです!

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「自社株買い」とは?

上場企業が自らの資金を使って、株式市場から自社の株式を買い戻すことをいう。

日本証券業協会HP 金融・証券用語集

自社の株を買った後は、

  1. 買い戻した株式を消却する。(無効とする。)
  2. 金庫株としてそのままにしておき、いずれ資金調達などの目的で売却する。

の2通りあります。

【自社株買いのメリットデメリット

<メリット>

  1. 発行済み株式数が減るため、会社の利益総額が変わらなければ、1株当たり利益(EPS)が増えるので、企業価値が上がる=株価が上がる可能性がある。
    (配当とともに株主還元の一つ)
  2. 配当金の支払いが少なくて済む。(企業側のメリット)
  3. 敵対的買収の防衛策(株価が上がって敵対企業が株を買いにくくなることと、市場に出回る株数の割合が少なくなるため)
  4. ROE(株主資本利益率:ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本×100(%))が上がる。
    自社株買いを行った場合、自己資金が減りますので、分母の「自己資本」が小さくなりROEが上がります。
  5. 株価は「割安」というメッセージを送ることができる。
    自社の株が安い時に買った方が、購入資金が少なくて済みます。(企業側のメリット)

<デメリット>

  1. 自己資金が減り、設備投資などの自社の成長に回せる資金が少なくなる。
  2. 自己資本比率(自己資本(総資本-他人資本)÷総資産) ×100)が下がる。

などがあります。

それでは、見ていきましょう!

自社株買いの概要

会社から発表された自己株式取得の概要は、表1のようになっています。

株数と金額の上限が設定されていますが、株価が上がれば、取得に必要な金額も大きくなりますので、予定の取得株数よりも少なくなることも多いです。

自社株買い発表日2023年3月31日(金)
取得期間2023年4月10日~ 9月29日
取得株式の総数普通株式 1,000 万株(上限)
発行済株式総数(自己株式を除く)に対する割合:4.3%
取得金額の5総額300 億円(上限)
※取得株数の上限で割ると1株あたり3,000円換算
取得方法東京証券取引所における市場買付
(証券会社による投資一任方式)
表1:双日 自社株買い概要

【自社株買いを行う理由】

としています。

自己株式の取得数量は、発行済み株式総数(自己株式を除く)の4.3%と自社株買いの数量としては多い数量(※1)です。

※1 一概に言えませんが、目安として、5%以上:かなり多い、3%以上5%未満:多い、1%以上3%未満:ほどほど、1%未満:少ないとしています。

なお、合わせて、以下の内容で自己株式の消却を発表しています。

消却予定日2023年4月7日
取得株式の総数普通株式 15,299,900
発行済株式総数(自己株式を除く)に対する割合:6.1%
消却後の発行済
株式総数
普通株式 235,000,000株
表2:双日 自己株式消却の概要

理由は、将来の株式価値の希薄化懸念を払拭するためとしています。

こちらも、株価にはポジティブな内容ですね!

また、この銘柄の直近の出来高(売買が成立した株式の数量)の5日平均は18,277百株、25日平均は19,506百株で、流動性はかなり高い水準です(1,000百株を平均水準としています)。

どんな会社?

それぞれ長い歴史を持つニチメン株式会社、日商岩井株式会社をルーツに持ち、

160年以上にわたって多くの国と地域の発展を、ビジネスという側面からサポートしてきた、世界の様々な国と地域に事業を展開する総合商社として幅広いビジネスを展開している会社です。

同社グループは、自動車航空産業・交通プロジェクトインフラ・ヘルスケア金属・資源・リサイクル化学生活産業アグリビジネスリテール・コンシューマーサービス7つの本部体制で、

国内外での多様な製品の製造・販売や輸出入サービスの提供各種事業投資などをグローバルに多角的に行っています。

具体的な事業内容は、それぞれ、

を行っています。

2022年3月期通期のセグメント別売上高構成比は、

となっており、「金属・資源・リサイクル」と「化学」が多く、3割弱づつを占めています。

直近の経営概況

【2023年3月期3Q(2022年4月~12月)の経営成績】

(2023年2月2日発表)

決算期収益
[億円]
(前年
同期比
[%])
税引前
利益
[億円]
(同)
当期
利益
[億円]
(同)
親会社所有者に
帰属する
当期利益
[億円]
(同)
2022年3月期
3Q累計
15,458
(33.5)
849
(252)
650
(247)
620
(271)
2023年3月期
3Q累計
19,253
(24.3)
1,454
(71.2)
1,128
(73.3)
1,087
(75.3)
2023年3月期
通期会社予想

(非開示)

(非開示)

(非開示)
1,100
(33.6)
通期予想に対する
3Qの進捗率[%]
98.8
表3:双日 2023年3月期3Q経営成績と2023年3月期通期予想

表3の通り、前年同期比 増収増益で、収益(売上高)は2割強増利益面は7割強の増益で好調です。

2023年3月期通期の業績予想は、親会社所有者に帰属する当期利益のみの開示ですが、前期比 3割強の増益を予想しており、

その通期予想に対する進捗率は、3Q終了時点で、既に通期予想に到達しそうな状況で、いつ上方修正してもおかしくありません。

【2023年3月期3Qの状況、経営成績の要因】

当3Q連結累計期間の同社グループの業績は、以下のとおりです。

【セグメント別の業績】

セグメント別の業績は、表4の結果になりました。

セグメント収益
[億円]
(前年
同期比[%])
四半期
純利益
[億円]
(同)

自動車
2,264
(25.8)
68.8
(17.5)
航空産業・
交通プロジェクト
517
(△9.9)
43.6
(86.7)
インフラ・
ヘルスケア
763
(81.4)
121
(4.3倍)
金属・資源・
リサイクル
5,189
(25.7)
483
(1.7倍)
化学4,810
(21.0)
151
(34.7)
生活産業・
アグリビジネス
2,726
(26.2)
74.3
(13.3)
リテール・
コンシューマー

サービス
2,328
(53.3)
75.2
(2.2倍)
表4:2023年3月期3Q セグメント別業績

「航空産業・交通プロジェクト」を除く事業増収増益で、

「航空産業・交通プロジェクト」減収増益でした。

セグメント毎の状況は以下です。

自動車

海外自動車事業での為替及び収益性良化などにより増収、

売上総利益の増益などにより増益となりました。

航空産業・交通プロジェクト

航空機機体販売における減収により減収、

ビジネスジェットチャーター販売や船舶の堅調な推移による売上総利益の増益などにより、増益となりました。

インフラ・ヘルスケア

米国省エネルギーサービス事業の取得などにより増収、

売上総利益の増益に加え、LNG事業会社の増益による持分法による投資損益の増加や、海外通信タワー事業会社の一部売却によるその他の収益・費用の増加などにより、増益となりました。

金属・資源・リサイクル

石炭価格の上昇などにより増収、

売上総利益の増益などにより増益となりました。

化学

合成樹脂取引の増加などにより増収、

売上総利益の増益などにより増益となりました。

生活産業・アグリビジネス

木材や肥料価格の上昇などにより増収、

売上総利益の増益などにより増益となりました。

リテール・コンシューマーサービス

水産食品加工会社の取得などにより増収、

売上総利益の増益に加え、リート資産運用会社の売却によるその他の収益・費用の増加などにより増益となりました。

【財政面の状況】

自己資本比率>(自己資本(総資本-他人資本)÷総資産)×100

2023年3月期3Q末時点で29.7%と前期末(27.4%)から2.3ポイント増加しています。

これは主に、利益剰余金前期末比で925億円増加したことにより、親会社の所有者に帰属する持分合計が1,211億円増加したことによるものです。

自己資本比率の数値としては危険領域に近いレベルです。(20%以上を安全圏内としています。)

キャッシュ・フロー>2023年3月期3Q累計のキャッシュ・フロー(以下、CF)の状況

 ※2 フリーCFの説明:

前期(2022年3月期3Q累計)のフリーCF(620億円の支出)から1,437億円増加しています。

営業活動によるCFの主な内訳(億円):

投資活動によるCFの主な内訳(億円):

【今期(2023年3月期通期)業績の見通し】

今2Q決算発表時(2022/11/1)に、各セグメントの事業全般が堅調に推移していることに加えて、足元の石炭市況および為替水準などによる業績への好影響が見込まれることを踏まえ、

2022 年 5 月 2 日に公表した連結業績予想に対し、親会社の所有者に帰属する当期利益を850億円から250億円(29.4%)増額し、1,100億円に上方修正しています。

なお、3Q決算発表時点では修正しておらず、前提条件として、4Qの為替レートを1ドル130円としています。

株価指標と動向

【2023/3/31(金)終値時点の数値】

PERは、同業で時価総額が近い、伊藤忠商事(8001) 7.8倍、丸紅(8002) 5.7倍、豊田通商(8015) 6.9倍と比較すると、低めの水準です。

配当金の利回り(予想)は4.70%で、東証プライムの単純平均 2.38%(3/31時点) と比較すると高い水準です。

表5のように、直近5年間の配当金は、1株当たり50~106円で推移しており、上下の幅があります。

配当性向は、20%台~40%台で推移しています。

決算期1株当たり
年間配当金
[円]
配当性向
[%]
2018年3月期5524.2
2019年3月期8530.2
2020年3月期8534.8
2021年3月期5044.4
2022年3月期10630.1
表5:双日 年間配当金推移

この会社は、

株主に対して安定的且つ継続的に配当を行うとともに、内部留保の拡充と有効活用によって企業競争力と株主価値を向上させることを基本方針とし、経営の最重要課題と位置付けています。

「中期経営計画 2023」(2022年3月期~2024年3月期の3か年)では、本基本方針に基づき連結配当性向を30%程度としています。

また、各年度末時点で PBR が1倍未満の場合は、時価ベースの DOE(※3)4%を下限配当とし、PBR が1倍以上の場合は、簿価ベースの DOE(※4)4%を下限配当として設定しています。

そして、「中期経営計画 2023」では、PBR 1倍超も目標としている経営指標の1つとして掲げられています。

(※3)時価ベースのDOE=1株当たり年間配当÷株価(各年度の終値年間平均)

(※4)簿価ベースのDOE=1株当たり年間配当÷1株当たり親会社所有者帰属持分(各年度末)

【直近の株価動向】

<週足チャート(直近2年間)>

出所:楽天証券サイト

この2年間は、ずっと右肩上がりの上昇トレンドで推移しており、

2023年3月に上場来高値(2,863円)をつけています。

<日足チャート(直近3か月間)>

出所:楽天証券サイト

直近の株価は、3/9に上場来高値(2,863円)をつけた後は調整しましたが、

75日移動平均線(青線)を支持線として再び上昇し、現時点(3/31)は全ての移動平均線を上抜けています。

今後は、上場来高値をあっさり上抜け上値追いをしていくのか、勢いが落ち下落に転じるのか、要注目です。

まとめ

【業績】

【株主還元】

【自社株買い数量・流動性】

【株価モメンタム】

以上のことから、

レベル
(⭐(最低)~
⭐⭐⭐⭐⭐(最高))
業績⭐⭐⭐⭐
株主還元
(配当、株主優待等)
⭐⭐⭐⭐
株価モメンタム⭐⭐⭐⭐⭐
自社株買い数量⭐⭐⭐⭐
流動性⭐⭐⭐⭐
総合判定⭐⭐⭐(買い)
※「総合判定」=⭐4つ以上「買い」、⭐3つ「中立」、⭐2つ以下「見送り」

と判断しました。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

※株式投資の実際の売買は、自己判断、自己責任でお願いします。

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