公募増資・売出(以下、PO)の実施を発表した銘柄に関して、POに応募して買った場合、利益を得ることができるのか?直近の経営状況や客観的な指標、株価モメンタム等を踏まえ、総合的に分析しました。
今回は、東証プライムから化学業種の関西ペイントです。
最後までお付き合いいただけるとうれしいです!
- 公募増資・売出(PO)とは?
既上場企業が新たに発行する株式(公募株式)や既に発行された株式(売出株式)を投資家に取得させることをいいます。 正確には、「PO」は「Public(公開の)Offering(売り物)」の略で、日本語では「公募」と呼ばれます。「公募」とは、「不特定かつ多数の投資家に対し、新たに発行される有価証券の取得の申込を勧誘すること」をいいます。 また、「売出」とは、「既に発行された有価証券の売付けの申込み又はその買付けの申込の勧誘のうち、均一の条件で50人以上の者を相手方として行う」ことをいい、通常は「公募」と「売出」を合わせて「PO」と呼ばれます。 「新規公開株(IPO)」は未上場企業が直接金融市場からの資金調達や知名度・信用力の向上を目的として証券取引所に新規上場するために一般投資家に株式を取得してもらう行為であるのに対して、「公募・売出(PO)」は既に上場していて証券取引所での株式取引が行われている企業が追加の資金調達や大株主の保有株売却などを目的として一般投資家に株式を取得してもらう行為であり、「新規公開株(IPO)」と「公募・売出(PO)」の違いを簡単にいえば、実施する企業が「未上場」か「既上場」かの違いといえます。
POの概要
今回のPOは、大株主(トヨタ自動車、大同生命保険、三菱UFJ信託銀行、双日、三菱UFJ銀行)からの株式の売出しです。売出価格等決定日や受渡期日、売出数量等は表1のようになっています。
ディスカウント率は、「売出価格等決定日」に決まり、その日の終値から数%です。
ちなみに、直近の主なPOのディスカウント率は、JR西日本(9021) 3.01%、日本郵政(6178) 2.01%、クリエイト・レストランツ・ホールディングス(3387) 3.09%となってますが、ほぼほぼ2~5%程度です。
ただ、ディスカウント率が大きいPOもあり、直近ではENECHANGE(4169)の8.1%が最大です。
注意点として、どの証券会社でも購入できるわけでなく、主幹事(今回は三菱UFJモルガン・スタンレー証券)はじめ、引受人の証券会社で購入申込可能です。
早ければ、3/8(水)の夕刻に、会社側から売出価格等のお知らせが適時開示であります。
このブログ記事も更新しますので、チェックしてくださいね💖
売出価格等決定日 | 2023 年3月8日(水) |
受渡期日 (POで買った場合はこの日から売却可能) | 2023 年3月15日(水) |
①株式の売出し (引受人の買取引受けによる売出し) 数量 | 普通株式 22,790,400 株 (発行済み株式総数 272,623,270 株 の約8.36%) |
②株式の売出し (オーバーアロットメント) 数量 | 普通株式 3,418,500 株 (実施決定(3/8)) ※三菱UFJモルガン・スタンレー証券が売出す。 |
売出価格 | 1,718 円 (3/8決定:終値 1,772 円) |
ディスカウント率 | 3.05 % (3/8決定) |
申込単位数量 | 100 株 |
主幹事 | 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 |
【株式売出しの目的】
- 同社株主5社による同社株式の売却意向を確認したため、同社株式の円滑な売却の機会を提供することで不規則な市場売却による株式の市場価格への影響を回避する。
- 当該株式売出しを実施することにより、投資家に同社への理解をより一層深めてもらうともに、幅広い投資家の方々に同社株式を保有してもらうことで、株主層の拡大、多様化、株式流動性の向上を目指す。
としています。
いわゆる政策保有株の縮減で、保有している企業の資本効率の改善や株式の流動性の向上が目的です。
今回の株式の売出数量は、発行済み株式総数の約8.36%(OAを含めた最大の株数で約9.61%)で、
直近の株式の売出のみのPOの売出株数比率(OA含む)は、野村総合研究所 6.95%、エスビー食品 2.86%、アクシージア 11.8%でしたので、それらと比較すると中間的な数量です。
また、この銘柄の直近の出来高(売買が成立した株の数量)の5日平均は14,937百株、25日平均は9,434百株で、流動性は高い水準です。(1日 1,000百株を平均的な水準としています。)
【自己株式の取得】
そして、今回の株式の売出しと同時に、表2の内容で自己株式の取得の発表も行っています。
自社株買い発表日 | 2023年 2月 28 日(火) |
取得期間 | 今回の売出しの受渡期日の翌営業日から 2024 年3月 15 日(金)まで |
取得株式の総数 | 普通株式 820万株(上限) (発行済株式総数(自己株式を除く)に対する割合:3.5%) |
取得金額の総額 | 120億円(上限) ※取得株数の上限で割ると1株あたり1,463円換算 |
取得方法 | 東京証券取引所における市場買付 |
【自己株式の取得を行う理由】
- 今回の株式の売出しに伴う同社株式需給への影響の緩和
- 株主還元の強化と資本効率の向上
としています。
株式の売出しは発行済み株式総数の最大(OA含む)約9.61%に対し、自社株買いの最大の数量(3.5%)分が、今回の市場に売り出される株式による需給悪化の緩和を図っているといえます。
どんな会社?
塗料の製造販売及び関連する諸サービス等を主な事業としている会社です。
同社が扱う塗料は、私たちの暮らしのなかで多種多様なものに塗られており、
素材を保護し長持ちさせる、美しい色やデザインで価値を高める、特別な機能の付与により便利さや快適さ、安心・安全を創出するといった役割が普遍的に求められています。
同社グループは、生産・販売体制を基礎とした地域別セグメントから構成されており、「日本」「インド」「欧州」「アジア」「アフリカ」の5つを決算報告セグメントとしています。
2022年3月期通期のセグメント別売上高構成比は、
- 日本 33.1%
- インド 23.2%
- 欧州 20.1%
- アジア 13.7%
- アフリカ 8.6%
- その他(アメリカ・メキシコ等) 1.3%
となっており、「日本」が最も多く3割強を占めています。
また、用途別の売上高構成比は、
- 自動車塗料 28.4%
- 工業塗料 24.4%
- 建築塗料 28.6%
- 自動車(補修用)船舶・防食塗料 10.5%
- その他 8.1%
となっており、「自動車塗料」と「建築塗料」がそれぞれ3割弱を占めています。
直近の経営概況
【2023年3月期3Q(2022年4月~2022年12月)の経営成績】
(2023年2月9日発表)
決算期 | 売上高 [億円] (前年同期比 [%]) | 営業 利益 [億円] (同) | 経常 利益 [億円] (同) | 親会社株主に 帰属する 当期純利益 [億円] (同) |
2022年3月期 3Q累計 | 3,115 (17.6) | 240 (7.9) | 302 (21.5) | 176 (41.0) |
2023年3月期 3Q累計 | 3,830 (22.9) | 241 (0.4) | 288 (△4.8) | 167 (△5.0) |
2023年3月期 通期会社予想 | 5,000 (19.3) | 320 (6.3) | 390 (3.7) | 230 (△13.3) |
通期予想に対する 3Qの進捗率[%] | 76.6 | 75.5 | 73.8 | 72.9 |
表3の通り、前年同期比 増収増益で、売上高は2割強増、利益面は営業利益は微増の増益ですが、経常利益と純利益は微減の減益でした。
2023年3月期通期の業績予想は、前期比 増収増益で売上高は2割増、利益面は営業利益と経常利益は微増~1割弱の増益、純利益は1割強の減益を予想しています。
通期予想に対する進捗率は、3Q終了時点で、売上高、利益面ともに3/4程度でそこそこです。
【2023年3月期3Qの状況、経営成績の要因】
当期における世界経済は地政学リスクの顕在化を背景とした供給制約及び原材料価格の高騰に加えて世界的なインフレの影響で多くの国で金融引き締めによる利上げが実施されており、その回復ペースが鈍化しています。
そのような状況下、中国は、感染症拡大を受けたロックダウンなどにより景気は低迷しています。
米国、欧州は利上げが景気を下押しするものの緩やかな持ち直しが継続しております。
その他の地域には、景気は回復基調もしくは持ち直しの動きが見られました。
日本は、資源高や為替の急激な変動、株安の影響などを受けつつも、感染症抑制と経済活動の両立が進むもとで持ち直しています。
同社グループの当3Q連結累計期間における売上高は3,830億円(前年同期比22.9%増)となりました。
営業利益は、原材料価格高騰の影響が継続し、売上増に伴い販売費用が増加する中で、販売価格への価格転嫁などの利益改善に取り組んだ結果、241億円(同0.4%増)となりました。
経常利益は持分法投資利益が減少した影響などにより、288億円(同4.8%減)となりました。
親会社株主に帰属する四半期純利益は、政策保有株式縮減に伴う投資有価証券売却益の計上などにより167億円(同5.0%減)となりました。
【セグメント別の業績】
セグメント別の業績は、表4の結果になりました。
セグメント | 売上高 [億円] (前年 同期比[%]) | 経常 利益 [億円] (同) |
日本 | 1,132 (9.2) | 111 (8.2) |
インド | 996 (36.3) | 88.6 (35.4) |
欧州 | 841 (32.6) | 13.1 (△74.8) |
アジア | 503 (21.6) | 55.8 (△6.4) |
アフリカ | 304 (17.9) | 10.2 (△3.7) |
その他 | 51.5 (27.0) | 9.0 (△23.5) |
主力の「日本」と「インド」で増収増益、
それ以外の「欧州」「アジア」「アフリカ」「その他」は増収減益でした。
セグメント別の状況は以下です。
<日本>
自動車分野では自動車生産台数が前年を上回り、売上は前年を上回りました。
工業分野は市況が低調に推移した一方で、販売価格の改善に取り組んだことなどから売上は前年を上回りました。
建築分野、自動車分野(補修用)及び防食分野では、市況の本格的な回復には至らなかったものの、販売価格の改善に取り組み売上は前年を上回りました。
船舶分野では、市況は回復し売上は前年を上回りました。
利益は原材料価格高騰の影響を受けた一方で、為替差益の発生などにより前年を上回りました。
<インド>
建築分野では需要は前年を僅かに下回りましたが、自動車分野の力強い回復により、売上は前年を上回りました。
原材料価格高騰の影響は大きいものの、販売価格の改善に継続して取り組んだことから利益も前年を上回りました。
<欧州>
トルコでは、自動車分野及び工業分野を中心に販売価格の改善に取り組み、売上は前年を上回りました。
その他欧州各国においても、工業分野及び建築分野を中心に堅調な需要に支えられ売上は前年を上回り、欧州全体の売上は前年を上回りました。
一方で、利益は原材料価格やエネルギーコストの高騰及びトルコにおける超インフレ会計適用の影響などにより、前年を下回りました。
<アジア>
中国は、自動車生産台数が前年を上回り、自動車分野での売上は前年を上回りました。
工業分野では産業機械向け塗料において、主要顧客の需要が減少し、売上は前年を下回りました。
これらの結果、中国全体での売上は前年を下回りました。
インドネシア、タイ及びマレーシアは、自動車生産台数の回復を受け、売上は前年を上回りました。
一方で、利益は原材料価格高騰による影響及び持分法投資利益の減少などにより前年を下回りました。
<アフリカ>
南アフリカ及び近隣諸国の経済は回復が遅れており需要が低迷する中、販売価格改善の取り組みにより南アフリカ地域の売上は伸長しました。
東アフリカ地域では、建築分野における販売価格改善の取り組みにより売上は伸長し、アフリカ全体の売上は前年を上回りました。
過年度より継続している不採算事業の整理による固定費削減に加え、感染症関連保険金の受領もあったものの、為替差損の発生により利益は前年を下回りました。
<その他>
北米では、自動車生産台数は前年を上回り、売上は前年を上回りました。
一方で、利益は原材料価格の高騰による影響などにより前年を下回りました。
【財政面の状況】
<自己資本比率>(自己資本(総資本-他人資本)÷総資産)×100)
2023年3月期3Q末時点で46.5%と前期末(53.3%)から6.8ポイント低下しました。
これは主に、短期借入金が前期末比で457億円増加、短期社債が449億円増加し、流動負債が合計で579億円増加したことによるものです。
自己資本比率の数値としては問題ないレベルです。(20%以上を安全圏内としています。)
【今期(2023年3月期通期)業績の見通し】
今2Qの決算発表(2022年11月10日)と同時に、当初予想から売上高、利益面をともに1割前後の増額修正をしています。
理由としては、
売上高は、価格転嫁の進展及び為替の影響などにより増加する見込みとなり、
利益面は、為替の影響に加え、日本において価格転嫁等の利益改善施策を継続していることや、
インドの主要分野の一つである自動車分野の回復などにより増加する見込みとなった。
としています。
株価指標と動向
【2023/3/1(水)終値時点の数値】
- 株価:1,760円
- 時価総額:4,798億円
- PER(株価収益率(今期予想)):17.7倍
PERは、同業で時価総額が近い、日本ペイントHD(4612) 29.2倍、大日本塗料(4611) 7.3倍、エスケー化研(4628) 14.3倍と比較すると、中間的な水準です。
- PBR(株価純資産倍率):1.37倍
- 信用倍率(信用買い残÷信用売り残):6.32倍
- 年間配当金(会社予想):30円(年2回 9月 15円、3月 15円)、年間利回り:1.70%(配当性向 31.4%)
配当利回りは1.70%で、東証プライムの単純平均2.38%(2/28時点) と比較すると低い水準です。
表5のように、直近5年間の配当金は、年間1株あたり27~30円で推移し、直近の4年間は30円で一定です。
また、配当性向は30~40%強でほぼ安定しています。
決算期 | 1株当たり 年間配当金 [円] | 配当性向 [%] |
2018年3月期 | 27 | 39.2 |
2019年3月期 | 30 | 44.3 |
2020年3月期 | 30 | 41.7 |
2021年3月期 | 30 | 38.5 |
2022年3月期 | 30 | 29.1 |
この会社は、
企業体質の強化を通じて収益力の向上を図り、株主に対し配当を安定的・継続的に実施することを考慮しながら、業績に応じた利益配分を行うことを基本方針としています。
内部留保資金は、長期安定的な経営基盤の確立とさらなる成長にむけて、研究開発への投資、国内外の生産販売体制の整備、グローバル化の加速を図るための投資等に有効活用していく予定です。
また、中間配当と期末配当の年2回の配当を継続し、変更しない方針です。
【直近の株価動向】
<週足チャート(直近2年間)>
週足ベースの株価は、2021年9月に高値(3,080円)をつけた後は、下落トレンドで推移し、2022年5月にその高値の半値ほどの安値(1,507円)をつけました。
そしてその後はこの安値は更新していませんが、52週移動平均線(青線)の下で推移しており、基本的には下落基調です。
<日足チャート(直近3か月間)>
直近の株価は、今年の年初に安値(1,580円)をつけた後は、上昇基調で推移し、今年2月に高値(1,907円)をつけました。
そして今回のPO発表の翌営業日(3/1)は、株式の売出しによる短期的な需給悪化懸念からか、出来高を伴い前日比 66円安(-3.61%)と売られました。
今後は、PO発表後に一旦下がった株価が上昇に転じ、直近の高値(1,907円)に向かって上昇していくのか、このまま下落トレンド入りし、直近の安値(1,580円)に向かって下落を継続するのか、要注目です。
まとめ
【業績】
- 今期(2023年3月期)3Qの業績は、日本やインドで自動車分野が回復し、販売価格への価格転嫁などの利益改善に取り組んだ結果、
前年同期比 増収増益で、売上高は2割強増、利益面は営業利益は微増の増益だが、経常利益と純利益は微減の減益。 - 今期通期予想は、前期比 増収増益で売上高は2割増、利益面は営業利益と経常利益は微増~1割弱の増益、純利益は1割強の減益を見込んでいる。
- 通期業績予想に対する進捗率は、3Q終了時点で、売上高、利益面ともに3/4程度でそこそこ。
【株主還元】
- 配当利回り(予想)は1.70%で、東証プライムの単純平均2.38%(2/28時点) と比較すると低い水準。
- 直近5年間の配当金は、年間1株あたり27~30円で推移し、直近の4年間は30円で一定。
- 配当性向は、50%台~70%でほぼ安定。
- 今回のPO発表と同時に、今回のPOによる株式の需給悪化懸念の緩和を目的とした自社株買い(820万株、120億円(上限))の実施を発表。
株式の売出しが発行済み株式総数の最大(OA含む)約9.61%に対し、自社株買いの最大の数量(3.5%)分の緩和を図る予定(1/3程度の緩和)。
【流動性・売出株数】
- 今回の自己株式の売出数量は、発行済み株式総数の約8.36%(OAを含めた最大の株数で約9.61%)で、
直近の自己株式の売出のみのPO(野村総合研究所、エスビー食品、アクシージア)の売出株数比率(OA含む)と比較すると中間的な数量。 - 直近の出来高の5日平均は14,937百株、25日平均は9,434百株で、流動性は高い水準。
【株価モメンタム】
- 週足ベースの株価は、2021年9月に高値(3,080円)をつけた後は、下落トレンドで推移し、2022年5月にその高値の半値ほどの安値(1,507円)をつけた。
そしてその後はこの安値は更新していないが、52週移動平均線の下で推移しており、基本的には下落基調。 - 直近の株価は、今年の年初に安値(1,580円)をつけた後は、上昇基調で推移し、今年2月に高値(1,907円)をつけた。
そして今回のPO発表の翌営業日(3/1)は、株式の売出しによる短期的な需給悪化懸念からか、出来高を伴い前日比 66円安(-3.61%)と売られた。 - 今後の株価は、PO発表後に一旦下がった株価が上昇に転じ、直近の高値(1,907円)に向かって上昇していくのか、このまま下落トレンド入りし、直近の安値(1,580円)に向かって下落を継続するのか要注目。
以上のことから、
レベル (⭐(最低)~ ⭐⭐⭐⭐⭐(最高)) | |
業績 | ⭐⭐⭐ |
株主還元 (配当、株主優待等) | ⭐⭐ |
株価モメンタム | ⭐⭐⭐ |
流動性 | ⭐⭐⭐⭐ |
株式の売出数量 | ⭐⭐⭐ |
総合判定 | ⭐⭐⭐(中立) |
と判断しました。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
※株式投資の実際の売買は、自己判断、自己責任でお願いします。