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【自社株買いは買いか?】日本電産(6594)

こんにちは!

直近で自己株式の取得を発表した銘柄に関して、この発表のタイミングで株を買った場合、利益を得ることができるのか?直近の経営状況や客観的な指標、株価モメンタム等を踏まえ、総合的に分析しました。

今回は、東証1部から電気機器業種の日本電産です。

最後までお付き合いいただけるとうれしいです!

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上場企業が自らの資金を使って、株式市場から自社の株式を買い戻すことをいう。

日本証券業協会HP 金融・証券用語集

自社の株を買った後は、

  1. 買い戻した株式を消却する。(無効とする。)
  2. 金庫株としてそのままにしておき、いずれ資金調達などの目的で売却する。

の2通りあります。

自社株買いのメリットとデメリット

<メリット>

  1. 発行済み株式数が減るため、会社の利益総額が変わらなければ、1株当たり利益(EPS)が増えるので、企業価値が上がる=株価が上がる可能性がある。(配当とともに株主還元の一つ)
  2. 配当金の支払いが少なくて済む。(企業側のメリット)
  3. 敵対的買収の防衛策(株価が上がって敵対企業が株を買いにくくなることと、市場に出回る株数の割合が少なくなるため)
  4. ROE(株主資本利益率:ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本×100(%))が上がる。
    • 自社株買いを行った場合、自己資金が減りますので、分母の「自己資本」が小さくなりROEが上がります。
  5. 自社の株価は「割安」というメッセージを送ることができる。
    • 自社の株が安い時に買った方が、購入資金が少なくて済みます。(企業側のメリット)

<デメリット>

  1. 自己資金が減り、設備投資などの自社の成長に回せる資金が少なくなる。
  2. 自己資本比率(自己資本(総資本-他人資本)÷総資産) ×100)が下がる。

などがあります。

それでは、見ていきましょう!

自社株買いの概要

会社から発表された自己株式取得の概要は、表1のようになっています。

株数と金額の上限が設定されていますが、株価が上がれば、取得に必要な金額も大きくなりますので、予定の取得株数よりも少なくなることが多いです。

自社株買い発表日2022年1月26日(水)
自己株式取得を行う理由経営環境の変化に応じた機動的な資本政策を遂行するため
取得期間2022年1月27日~ 2023年1月24日
取得株式の総数普通株式 400万株(上限)
発行済株式総数(自己株式を除く)に対する割合:0.68%
取得金額の総額500億円(上限)
取得方法(言及無し)
表1:日本電産 自社株買い概要

今回の自己株式の取得数量は、発行済み株式総数の0.68%と自社株買いの数量としては少ない数量(※1)です。

※1 一概に言えませんが、目安として、5%以上:かなり多い、3%以上5%未満:多い、1%以上3%未満:ほどほど、1%未満:少ないとしています。

直近の出来高(売買が成立した株式の数量)の5日平均は41,495百株、25日平均は18,379百株で、流動性は高い水準です(1,000百株を平均水準としています)。

どんな会社?

世界中にグループ企業約300社を擁しており、小さいものから大きいものまで、 “回るもの、動くもの”全てを手がける「世界No.1の総合モーターメーカー」です。

創業以来一貫して「世界一」を追求し続け、

「世界一」の実現に向けた「情熱、熱意、執念」「知的ハードワーキング」「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」という三つの精神が、同社のアイデンティティであり強みです。

製品グループは、「精密小型モータ」「車載」「家電・商業・産業用」「機器装置」「電子・光学部品」「その他」があり、

2021年3月期通期の製品別売上高構成比は、

となっており、「家電・商業・産業用」「精密小型モータ」「車載」の順で売上が多くなっています。

直近の経営概況

2022年3月期3Q(2021年4月~2021年12月)の経営成績】(2022年1月26日発表)

決算期売上高
[億円]
(前年同期比[%])
営業利益
[億円]
(同)
税引前利益
[億円]
(同)
親会社所有者に
帰属する当期利益
[億円]
(同)
2021年3月期3Q累計11,850
(ー)
1,155
(ー)
1,093
(ー)
836
(ー)
2022年3月期3Q累計14,072
(18.8)
1,346
(16.6)
1,306
(19.4)
1,004
(20.1)
2022年3月期通期会社予想18,000
(11.2)
1,900
(18.8)
1,850
(21.0)
1,480
(21.4)
通期予想に対する3Qの進捗率[%]78.270.970.667.9
表2:日本電産 2022年3月期3Q経営成績

2022年3月期3Q累計の業績は、前年同期比 増収増益で、売上高、利益面ともに2割程度増となっており好調です。

2022年3月期通期の業績は、前期比で売上高は1割増、利益面は2割程度の増益を予想しており、

通期予想に対する進捗率は、3Q終了時点で7割ほどに達していて順調です。

【2022年3月期3Qの状況、経営成績の要因】

当3Q連結累計期間の継続事業からの連結売上高は、家電向けコンプレッサや空調機器向けモータ、欧米での搬送用ロボット向けモータ及びギアの増収等により、前年同期比18.8%増収の1兆4,072億円となり、過去最高を更新しました。

営業利益は、家電・商業・産業用製品の増収を主因として、また顧客における半導体等電子部品の影響や世界的な原材料高騰に対して、WPR4プロジェクトによる徹底した原価改善及び固定費適正化等を実行した結果、前年同期比16.6%増益の1,346億円となり、過去最高を更新しました。

税引前四半期利益前年同期比19.4%増益の1,306億円となり、過去最高を更新しました。
親会社の所有者に帰属する四半期利益は、継続事業からの四半期利益の大幅な増益により、前年同期比20.1%増益の1,004億円となりました。

【製品グループ別の業績】

製品グループ別の業績は、表3の結果になりました。

製品グループ売上高[億円]
(前年比[%])
営業利益
[億円]
(同)
精密小型モータ3,212
(△5.5)
371
(△27.5)
車載3,011
(17.6)
108
(△10.3)
家電・商業・産業用5,758
(34.1)
579
(59.9)
機器装置1,543
(38.3)
312
(58.8)
電子・光学部品520
(13.8)
73.5
(47.4)
その他28.5
(12.3)
3.2
(36.1)
表3:2022年3月期3Q  製品別業績

「精密小型モータ」は減収減益「車載」は増収減益

それ以外は増収増益で、特に主力の「家電・商業・産業用」と「機器装置」は好調で、売上高は3割増、営業利益は6割増の結果になっています。

製品グループ別の状況は以下です。

精密小型モータ

HDD用モータの売上高は、販売数量の減少を主因として、前年同期比34.0%減収の769億円となりました。

一方、その他小型モータは、IT用ファンモータ、高効率の家電用モータ、ゲーム機等のサーマルソリューション商材等の新製品を数多市場投入することで新規需要を次々に取り込んだことにより、売上高は前年同期比9.3%増収の2,444億円となりました。


営業利益は、部品内製化等の徹底的な原価改善を行ったものの、減収を主因として、前年同期比27.5%減益の371億円となりました。為替の影響は前年同期比約53億円の増益要因となりました。

車載

売上高は、前3Q連結累計期間と比較するとやや回復基調にあり、前年同期比17.6%増収の3,011億円となりました。為替の影響は前年同期比約120億円の増収要因となりました。

営業利益は、顧客における半導体等電子部品の影響に加え、引き合い、受注が急拡大しているトラクションモータシステム(E-Axle)等の開発費等を継続して計上している一方、WPR4プロジェクトによるあらゆる原価改善に総力を挙げて取り組んだ結果、前年同期比10.3%減益の108億円となりました。為替の影響は前年同期比約7億円の減益要因となりました。

家電・商業・産業用

売上高は、主に家電向けコンプレッサや空調機器向けモータ、欧米での搬送用ロボット向けモータ及びギアの増収により、前年同期比34.1%増収の5,758億円となりました。為替の影響は前年同期比約273億円の増収要因となりました。

営業利益は、あらゆる事業分野で省エネ高効率高付加価値新製品の需要を取り込んだ増収効果があり、また世界的な原材料高騰に対して継続的な原価改善、固定費適正化を実行した結果、前年同期比59.9%の大幅増益となる579億円となりました。為替の影響は前年同期比約26億円の増益要因となりました。

機器装置

売上高5G向け需要が好調な半導体検査装置や中国市場での顧客ニーズに応えた新製品の連続投入によるプレス機・減速機の大幅な増収等により、前年同期比38.3%増収の1,543億円となりました。為替の影響は前年同期比約45億円の増収要因となりました。

営業利益増収を主因に、前年同期比58.8%の大幅増益となる312億円となりました。為替の影響は前年同期比約5億円の減益要因となりました。

電子・光学部品

売上高前年同期比13.8%増収の520億円為替の影響は前年同期比約30億円の増収要因となりました。

営業利益増収及び新製品の連続投入効果により、前年同期比47.4%増益の73.5億円となりました。為替の影響は前年同期比約5億円の増益要因となりました。

【財政面の状況】

自己資本比率>(自己資本(総資本-他人資本)÷総資産)×100

2022年3月期3Q末時点で47.4%と前期末(48.6%)から1.2ポイント減少しました。

自己資本比率の数値としては良好なレベルです。(20%以上を安全圏内としています。)

キャッシュ・フロー

2022年3月期3Qのキャッシュ・フロー(以下、CF)の状況

フリー・キャッシュ・フロー:プラスの場合、会社が使える資金があることを意味し、マイナスの場合、会社が自由に使うことができる資金が少ないことを意味する。

前期(2021年3月期)3QのフリーCF(689億円の収入)から910億円悪化しています。

これは主に、四半期利益が前期比で158億円増加しましたが、営業債権が291億円増加、棚卸資産の976億円増加等があり、営業活動によるCFの収入が減少したことと、

有形固定資産の取得による支出が前期比で94億円増加、事業取得による支出が35.6億円増加したこと等により、投資活動によるCFの支出が増加したためです。

【今期(2022年3月期通期)の見通し】

IMFは2022暦年の世界経済成長率を2021年10月時点で+4.9%と予想しています。

半導体供給懸念、原材料価格高騰といったリスク要因に加えて、新型コロナウイルスの新変異株の出現は世界各国で大幅な感染者数拡大をもたらしており、各国経済への影響が懸念され、

車載部門の顧客生産台数も未だ本格回復トレンドは見られず、経営環境は予断を許さない状況が続くことを見込んでいます。

現時点の2022年3月期通期の業績見通しは表2の数値です。
想定平均為替レートについては従来どおり、対米ドルでは105円、対ユーロでは117円として変更なしです。

株価指標と動向

【2022/1/27(木)終値時点の数値】

PERは、同業で時価総額が近い、三菱電機(6503) 13.7倍、マブチモーター(6592) 17.5倍と比較すると、高い水準です。

配当今3Qの決算発表と同時に、年間配当金を従来予想60円から65円に5円増配されています。

理由は、

「会社は株主のもの」との視点から、株主への利益配分は、連結純利益の30%を見据えて、安定配当を維持しながら連結純利益の状況に応じて配当額の向上に努めており
この基本方針に基づき、財政状態、利益水準、配当性向等を総合的に勘案して増配しています。

年利回りは0.7%で、東証1部の単純平均2.13%(1/26時点) と比較すると低い水準です。

決算期1株当たり
年間配当金(円)
配当性向(%)
2017年3月期42.522.7
2018年3月期47.521.5
2019年3月期52.527.9
2020年3月期57.557.9
2021年3月期6028.8
表4:日本電産 年間配当金推移

表4のように、直近5年間の配当金は、連続増配されています。

配当性向は、2020年3月期は50%超ですが、その他の年は20%台です。

この会社は、

安定配当を維持しながら連結純利益額の状況に応じて配当額の向上に取り組むと同時に、企業体質の一層の強化と積極的な事業展開の促進に備えて内部留保を充実することとしています。

また、中間配当と期末配当の年2回の剰余金の配当を行うことを基本方針としています。

【株主優待】

この会社は株主優待があり、下記が贈呈されます。

  1. 「日本電産サンキョーオルゴール記念館すわのね」(長野県諏訪郡)の無料入館リーフレット
    来館時5千円以上の商品を購入の場合、購入価格の10%割引(条件:3月末に1株以上保有のすべての株主)
  2. 応募抽選で以下のオルゴールを贈呈(3月末)
    • 10年以上100株以上継続保有の株主
      7万5千円相当の50弁オルフェウス-イタリア象嵌BOX(抽選で10名)
    • 3年以上100株以上保有の株主
      5千円相当のオルゴール(抽選で100名)
  3. 会社見学会招待(応募・抽選)(9月末の10年以上100株以上保有の株主)

こちらは株主にとってうれしいですね。

【直近の株価動向】

<週足チャート(直近2年間)>

出所:楽天証券サイト

株価は、一昨年のコロナショック時の安値(4,837.5円)から、ほとんど押し目がなく上昇トレンドで推移し、昨年2月に安値の約3倍の高値(15,175円)をつけました。

しかしその後は上昇は続かず調整し、今年に入ってから急激に値を下げています。

<日足チャート(直近3か月間)>

出所:楽天証券サイト

直近の株価は、年初までは緩やかですが上昇トレンドで推移していましたが、

今年の大発会に高値(13,840円)をつけた後は、一方的に下げ続けました。

そして、今回の3Q決算発表、増配、自社株買いの発表の翌営業日(1/27)は、寄付きは高く始まったのですが、

寄り天井で、地合いが相当に悪かったせいもあり、日中に1,000円以上も下げ、年初来安値を更新し、前日比 630円安(-6.2%)で終了しました。

今後は、下値支持が見当たらない状況ですので、節目の9,000円程度で下げ止まるかどうか要注目です。

まとめ

【業績】

【株主還元】

【流動性・自社株買い数量】

【株価モメンタム】

以上のことから、

レベル(最低⭐~最高⭐⭐⭐⭐⭐)
業績⭐⭐⭐⭐
配当を含む株主還元⭐⭐⭐
株価モメンタム
流動性⭐⭐⭐⭐
自社株買い数量⭐⭐
総合判定⭐⭐⭐(中立)
※「総合判定」=⭐4つ以上「買い」、⭐3つ「中立」、⭐2つ以下「見送り」

と判断しました。

現時点(1/27)は、地合いが悪く、しばらくして落ち着いてから買い判断をした方が無難ですね。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

※株式投資の実際の売買は、自己判断、自己責任でお願いします。

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