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【自社株買いは買いか?】伊藤忠商事(8001)

繊維

こんにちは!

直近で自社株式の取得を発表した銘柄に関して、この発表のタイミングで株を買った場合、利益を得ることができるのか?直近の経営状況や客観的な指標、株価モメンタム等を踏まえ、総合的に分析しました。

今回は、東証1部から卸売業種の伊藤忠商事です。

最後までお付き合いいただけるとうれしいです!

上場企業が自らの資金を使って、株式市場から自社の株式を買い戻すことをいう。

日本証券業協会HP 金融・証券用語集

自社の株を買った後は、

  1. 買い戻した株式を消却する。(無効とする。)
  2. 金庫株としてそのままにしておき、いずれ資金調達などの目的で売却する。

の2通りあります。

自社株買いのメリットとデメリット

<メリット>

  1. 発行済み株式数が減るため、会社の利益総額が変わらなければ、1株当たり利益(EPS)が増えるので、企業価値が上がる=株価が上がる可能性がある。(配当とともに株主還元の一つ)
  2. 配当金の支払いが少なくて済む。(企業側のメリット)
  3. 敵対的買収の防衛策(株価が上がって敵対企業が株を買いにくくなることと、市場に出回る株数の割合が少なくなるため)
  4. ROE(株主資本利益率:ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本×100(%))が上がる。
    • 自社株買いを行った場合、自己資金が減りますので、分母の「自己資本」が小さくなりROEが上がります。
  5. 自社の株価は「割安」というメッセージを送ることができる。
    • 自社の株が安い時に買った方が、購入資金が少なくて済みます。(企業側のメリット)

<デメリット>

  1. 自己資金が減り、設備投資などの自社の成長に回せる資金が少なくなる。
  2. 自己資本比率(自己資本(総資本-他人資本)÷総資産) ×100)が下がる。

などがあります。

それでは、見ていきましょう!

自社株買いの概要

会社から発表された自己株式取得の概要は、表1のようになっています。

株数と金額の上限が設定されていますが、株価が上がれば、取得に必要な金額も大きくなりますので、予定の取得株数よりも少なくなることが多いです。

自社株買い発表日2022年1月19日(水)
自己株式取得を行う理由2021年5月10日に公表した中期経営計画の株主還元方針を踏まえ、機動的な資本政策の遂行を図るため
取得期間2022年1月20日~ 2022年3月31日
取得株式の総数普通株式 2,000万株(上限)
発行済株式総数(自己株式を除く)に対する割合:1.3%
取得金額の総額600億円(上限)
取得方法ー(言及無し)
表1:伊藤忠 自社株買い概要

今回の株式の取得数量は、発行済み株式総数の1.3%と自社株買いの数量としてはほどほど数量(※1)です。

※1 一概に言えませんが、目安として、5%以上:かなり多い、3%以上5%未満:多い、1%以上3%未満:ほどほど、1%未満:少ないとしています。

直近の出来高(売買が成立した株式の数量)の5日平均は41,511百株、25日平均は26,825百株で、流動性は高い水準です(1,000百株を平均水準としています)。

どんな会社?

“未来を、試着しよう。”

年初にこんなキャッチフレーズで、新聞の一面広告が出ましたね。

伊藤忠商事は、繊維事業を祖業として、今ファッションを通じてできることは何か。という想いをこの言葉に込めているということです。

現在は、世界62ヶ国に約100の拠点を持つ大手総合商社として、繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、金融の各分野において国内、輸出入及び三国間取引を行うほか、

国内外における事業投資など、幅広いビジネスを展開しています。

事業セグメントは、以下の8つがあります。

の幅広い事業を行っています。

2021年3月期のセグメント別売上高構成比は、

となっており、「食料」と「エネルギー・化学品」の割合が大きく、2つ合わせて、約6割を占めています。

直近の経営概況

2022年3月期2Q(2021年4月~2021年9月)の経営成績】(2021年11月5日発表)

決算期収益
[億円]
(前年同期比[%])
営業利益
[億円]
(同)
経常利益
[億円]
(同)
同社株主に
帰属する純利益
[億円]
(同)
2021年3月期2Q累計49,177
(△10.4)
1,909
(△14.2)
2,906
(△27.1)
2,525
(△12.6)
2021年3月期2Q累計58,748
(19.5)
3,041
(59.3)
6,999
(141)
5,006
(98.3)
2022年3月期通期会社予想
(2021年11月5日修正)

(予想無し)

(予想無し)

(予想無し)
7,500
(86.8)
通期予想に対する2Qの進捗率[%]66.7
表2:伊藤忠 2022年3月期2Q経営成績

2022年3月期2Q累計の業績は、前年同期比 増収増益で、収益は2割増、利益面は6割~2倍以上増の利益を上げており好調です。

2022年3月期通期会社予想は、純利益のみですが、前期比 増益で前期比9割弱増の予想しており、

通期予想に対する進捗率は、7割近くに達していて順調です。

【2022年3月期2Qの状況、経営成績の要因】

収益(外部顧客からの収益)

前年同期比 9,571億円(19.5%)増収の5兆8,748億円

売上総利益>(売上高ー売上原価)

前年同期比1,150億円(13.5%)増収の9,680億円

【財政面の状況】

自己資本比率>(自己資本(総資本-他人資本)÷総資産)×100

2022年3月期2Q末時点で33.5%と前期末(29.7%)から3.8ポイント増加しました。

自己資本比率の数値としては問題ないレベルです。(20%以上を安全圏内としています。)

キャッシュ・フロー

2022年3月期2Q累計のキャッシュ・フロー(以下、CF)の状況

フリー・キャッシュ・フロー:プラスの場合、会社が使える資金があることを意味し、マイナスの場合、会社が自由に使うことができる資金が少ないことを意味する。

前期(2021年3月期)2QのフリーCF(プラス3,212億円)から1,534億円増加しています。

これは主に、第8、金属、食料および機械での営業取引収入の堅調な推移があり営業CFが増加したことと、

第8、食料および機械での固定資産による取得に加え、台湾ファミリーマートの一部売却に伴い関連会社に区分変更したことによる現金の減少があったものの、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスの一部売却および日伯紙パルプの売却等により、投資CFの収入が増加したことによるものです。

【今期(2022年3月期通期)の見通し】

2022年3月期2Q決算発表と同時に、当期純利益を上方修正しています。

これに伴い、配当金も増額修正されています。

通期業績予想は、表4のようになっています。

同社株主に
帰属する
当期純利益
[億円]
1 株当たり
当期純利益

[円]
1 株当たり
年間配当金

[円]
前回(2021/5/10)発表予想5,500370.3194
今回(11/5)修正予想7,500504.95110
増減額2,000134.6416
増減率[%]36.4
表4:2021年11月5日発表 2022 年3月期通期連結業績予想

純利益を4割弱増額修正しています。

修正の理由は、

引き続き基礎収益が順調に積み上がっている状況を踏まえ、上方修正しています。

1株当たり配当額は16円増額し、年間110円で、この金額を最低金額保証しています。

株価指標と動向

【2022/1/20(木)終値時点の数値】

PERは、同業で時価総額が近い、三菱商事(8058) 7.5倍、三井物産(8031) 6.4倍、住友商事(8053) 5.7倍と比較すると、中間的な水準です。

配当は年利回り 3.0%で、東証1部の単純平均2.11%(1/19時点) と比較すると高い水準です。

決算期1株当たり
年間配当金(円)
配当性向(%)
2017年3月期5524.6
2018年3月期7027.1
2019年3月期8325.6
2020年3月期8525.3
2021年3月期8832.6
表5:伊藤忠 年間配当金推移

表5のように、直近5年間の配当金は連続増配されています。

配当性向は30%前後で安定しています。

この会社は、

中期経営計画「Brand-new Deal 2023」期間中に配当金100円を目指しています。(⇒今期(2022年3月期)達成見込み)

自己株式取得についても、従来通り、キャッシュアロケーションの状況に鑑み、機動的、継続的に実行する方針です。

内部留保資金は、同社の企業価値極大化に寄与する事業投資等に役立てる方針です。

【直近の株価動向】

<週足チャート(直近2年間)>

出所:楽天証券サイト

株価は、一昨年のコロナショック時の安値(1,911円)をつけた後は、右肩上がりの上昇を続け、昨年4月初めの高値(3,656円)まで一気に上げました。

しかしその後は、3,100円程度を底にして、レンジ内の動きとなっています。

<日足チャート(直近3か月間)>

出所:楽天証券サイト

直近の株価は、右肩上がりの上昇トレンドが続いており

今回の自社株買い発表の翌営業日(1/20)は、大きな陽線をつけて上昇し、前日比 189円高(+5.5%)となりました。

そして、しばらく超えられなかった昨年4月の上場来高値(3,656円)を高値ベースで超えてきました。

今後は、株価がどこまで上昇するか楽しみですね!

まとめ

【業績】

【株主還元】

【流動性・自社株買い数量】

【株価モメンタム】

以上のことから、

レベル(最低⭐~最高⭐⭐⭐⭐⭐)
業績⭐⭐⭐⭐
配当を含む株主還元⭐⭐⭐⭐
株価モメンタム⭐⭐⭐⭐⭐
流動性⭐⭐⭐⭐⭐
自社株買い数量⭐⭐⭐
総合判定⭐⭐⭐⭐(買い)
※「総合判定」=⭐4つ以上「買い」、⭐3つ「中立」、⭐2つ以下「見送り」

と判断しました。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。

※株式投資の実際の売買は、自己判断、自己責任でお願いします。

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