こんにちは!
公募増資・売出(以下、PO)の実施を発表した銘柄に関して、POに応募して買った場合、利益を得ることができるのか?直近の経営状況や客観的な指標、株価モメンタム等を踏まえ、総合的に分析しました。
今回は、東証1部から化学業種の日華化学です。
最後までお付き合いいただけるとうれしいです!
- 公募増資・売出(PO)とは?
既上場企業が新たに発行する株式(公募株式)や既に発行された株式(売出株式)を投資家に取得させることをいいます。 正確には、「PO」は「Public(公開の)Offering(売り物)」の略で、日本語では「公募」と呼ばれます。「公募」とは、「不特定かつ多数の投資家に対し、新たに発行される有価証券の取得の申込を勧誘すること」をいいます。 また、「売出」とは、「既に発行された有価証券の売付けの申込み又はその買付けの申込の勧誘のうち、均一の条件で50人以上の者を相手方として行う」ことをいい、通常は「公募」と「売出し」を合わせて「PO」と呼ばれます。 「新規公開株(IPO)」は未上場企業が直接金融市場からの資金調達や知名度・信用力の向上を目的として証券取引所に新規上場するために一般投資家に株式を取得してもらう行為であるのに対して、「公募・売出(PO)」は既に上場していて証券取引所での株式取引が行われている企業が追加の資金調達や大株主の保有株売却などを目的として一般投資家に株式を取得してもらう行為であり、「新規公開株(IPO)」と「公募・売出(PO)」の違いを簡単にいえば、実施する企業が「未上場」か「既上場」かの違いといえます。
POの概要
今回のPOは、公募による増資はなく、大株主からの株式の売出です。 売出価格決定期間や受渡期日、発行数量は以下です。
ディスカウント率は、「売出価格等決定日」に決まり、その日の終値から数%です。
注意点として、どの証券会社でも購入できるわけでなく、主幹事会社(今回は、野村證券)をはじめ、引受人の証券会社で購入申込可能です。
早ければ、9/28(火)の夕刻に、会社側から売出価格等のお知らせが適時開示であります。このブログ記事でも更新しますので、チェックしてくださいね💖
売出価格等決定日 | 2021年9月28日(火) |
受渡期日 (POで買った場合はこの日から売却可能) | 2021年10月5日(火) |
株式の売出し (引受人の買取引受けによる売出し)数量 | 1,193,100 株 (発行済み株式 総数 17,710,000 株の約6.7%) |
株式売出し (オーバーアロットメント(以下、OA)による売出し)の数量 | 178,900 株(株式の売出しの合計株数の約15.0%。(実施決定 9/28)) ※上記の「売出価格等決定日」に決定。野村證券が売出す。 |
売出価格 | 1,000 円 |
ディスカウント率 | 3.01% |
申込単位数量 | 100株 |
株式売出の目的 | 2021 年7月9日付の東京証券取引所からの、「新市場区分における上場維持基準への適合状況に関する一次判定結果について」で、「流通株式時価総額」「売買代金」についてはプライム市場の上場維持基準を充たしていない旨の通知を受け検討した結果、 当社としては中長期的な企業価値向上の観点のためプライム市場上場維持基準の適合に向けた取組を行うこととし、上記売出しを実施する。 |
主幹事会社 | 野村證券 |
今回の売出株数は、 発行済み株式総数の約6.7% (OAを含めた最大の株数を含めると約7.7%)と、ほどほどに多い数量です。
また、この銘柄の直近の出来高(売買が成立した株の数量)の5日平均は256百株、25日平均は184百株と流動性は低い水準です。
今回の株式の売出は、中長期的な企業価値向上のために、来年4月からの東証再編での「プライム市場」の上場基準適合に向けた取り組みをするということですので、株主にとっても賛同できる内容ではないでしょうか。
どんな会社?
「化学品事業」と「化粧品事業」の2つの事業領域を持つ、界面活性剤(分子内に水になじみやすい部分(親水基)と、油になじみやすい部分(親油基・疎水基)を持つ物質の総称)メーカーです。
- 化学品事業:界面化学を基盤にした事業・・・繊維化学品、特殊化学品、機能化学品、クリーニング、メディカル、先端素材
- 化粧品事業:毛髪科学を基盤にした事業・・・ヘアケア剤、スタイリング剤、ヘアカラー剤、パーマ剤
2020年12月通期のセグメント別売上高構成比は、
- 化学品事業 69.2%
- 化粧品事業 29.6%
- その他 1.2%
となっており、化学品事業が7割程度を占めています。
直近の経営概況
【2021年12月期2Q(2021年1月1日~2021年6月30日)の経営成績】(2021年7月29日発表)
決算期 | 売上高 [億円] (前年同期比[%]) | 営業利益 [百万円] (同) | 経常利益 [百万円] (同) | 親会社の所有者に 帰属する純利益 [百万円] (同) |
2020年12月期2Q累計 | 198 (△16.5) | 339 (△55.9) | 470 (△30.9) | 175 (△46.6) |
2021年12月期2Q累計 | 241 (22.0) | 1,413 (316) | 1,596 (239) | 1,583 (802) |
2021年12月期通期会社予想 | 465 (12.9) | 2,200 (55.3) | 2,300 (39.8) | 1,900 (81.9) |
通期予想に対する 1Qの進捗率[%] | 51.8 | 64.2 | 69.4 | 83.3 |
2021年12月期2Q累計の業績は、前年同期比増収増益で、特に利益面は3倍以上の増益となっており好調です。
通期予想に対する進捗率は、売上高はほどほど、利益面は6割を超えており順調です。
【2021年12月期2Qの状況、経営成績の要因】
当社グループは、永続的成長に向けて2025年までの全社基本ビジョンを「世界中のお客様から最も信頼されるイノベーション・カンパニー」と掲げ、3つの経営軸(「Innovation」「Efficiency」「Sustainability」)のもと、激変する経営環境をビジネスチャンスへと昇華し、社会からますます必要とされる価値を提供する事業に注力することで、着実に成長を遂げる真に強い企業集団へと生まれ変わるため、新たな5か年中期経営計画『INNOVATION25』(2021-2025)を掲げ、5つの全社基本戦略(「事業構造の大転換」「生産性改革」「財務基盤の強化」「サステナブル経営の推進」「大家族主義の進化」)に取り組んでいます。
【セグメント別の業績】
セグメント別の業績は、表3の結果になりました。
セグメント | 売上高[億円] (前年同期比[%]) | セグメント利益 [百万円](同) |
化学品 | 167 (19.0) | 908 (140) |
化粧品 | 72.8 (33.7) | 1,443 (80.1) |
その他 | 1.5 (△49.8) | 40 (102) |
「その他」以外は前年同期比 増収増益で、「化学品事業」は売上高が2割増、利益は2.4倍、
「化粧品事業」は売上高が3割増、利益は8割増の結果になっており好調でした。
<化学品事業>
コロナ禍の影響が継続しているものの、全般的に流通在庫の積み上げ等による需要回復が見られるとともに、特殊樹脂モノマー、環境衛生関連薬剤やフッ素化成品が堅調に推移しました。また、アジア通貨に対する円安の影響もあり売上高は増加しました。
このような状況の中、昨年から実施している経費抑制の継続、一昨年実施した設備投資の減価償却費減少により、セグメント利益は増加しました。
<化粧品事業>
当社デミ コスメティクスにおいては、度重なる緊急事態宣言による市況悪化の影響を受けたものの、主力ヘアケアブランドの拡販等により堅調に推移しました。
山田製薬株式会社は、大口受託案件の新商品増産に加えて新規顧客の獲得増により好調に推移しました。
その結果、化粧品セグメント全体では売上高及びセグメント利益ともに増加しました。
【財政面の状況】
自己資本比率(自己資本(総資本-他人資本)÷総資産) ×100)は、2021年12月期2Q末時点で44.7%と前期末(39.5%)から5.2ポイント増加しました。
数値としても問題ない水準(20%以上を安全圏としています。)です。
また、2021年12月期2Q累計のキャッシュ・フロー(以下、CF)の状況は、営業活動によるCF 2,061百万円の収入、投資活動によるCF 25百万円の支出の結果、営業活動によるCFと投資活動によるCFを合計したフリーCF※は2,036百万円のプラスとなりました。
※フリー・キャッシュ・フロー:プラスの場合、会社が使える資金があることを意味し、マイナスの場合、会社が自由に使うことができる資金が少ないことを意味する。
前期(2020年12月期)2QのフリーCF(プラス535百万円)から1,501百万円改善しています。
これは主に、「税金等調整前四半期純利益」が前年同期比 1,607百万の増加と、「有形固定資産の売却による収入」が727百万円増加したためです。
【今期(2021年12月期)の見通し】
今2Qの決算発表と同時に、通期業績と配当金予想を修正しています。通期予想は表4になっています。
売上高 [億円] | 営業利益 [百万円] | 経常利益 [百万円] | 当期純利益 [百万円] | 1 株当たり 当期純利益 [円] | 1 株当たり 年間配当金 [円] | |
前回発表予想 | 435 | 1,500 | 1,500 | 1,300 | 82.60 | 12 |
今回修正予想 | 465 | 2,200 | 2,300 | 1,900 | 120.66 | 16 |
増減額 | 30 | 700 | 800 | 600 | ー | 4 |
増減率[%] | 6.9 | 46.7 | 53.3 | 46.2 | ー | 33.3 |
売上高は微増ですが、利益面は5割程度増額しています。
修正の理由は、
- 2021 年 12 月期上期(第2四半期累計期間)において、コロナ禍の影響を受けたものの、一部の事業分野で流通在庫の積み上げ等による想定以上の需要回復が見られ、加えて新規分野等での販売が伸長したことなどから当初計画に対し大幅な増収・増益。
- 一方、2021年12月期下期(第3四半期及び第4四半期)においては、コロナ禍の影響拡大や流通在庫の積み上げ一巡による需要減少が懸念されることに加え、原材料の高騰、活動費の一部増加が見込まれる。
としています。
また、この業績の上方修正に伴う増配も発表していまして、年間の配当金を12円から4円増配し、16円予想としています。こちらは株主にとってうれしい内容ですね!
株価指標
【9/17(金)終値時点の数値】
- 株価:1,094円
- 時価総額:194億円
- PER:8.2倍
PERは、同業で時価総額が近い、東邦化学(4409) 11.4倍、松本油脂(4365) 9.8倍、第一工業製薬(4461) 10.3倍と比較すると、中間的な水準です。
- PBR:0.73倍
- 信用倍率(信用買い残÷信用売り残):440倍
- 年間配当金(予想):16円(年2回 6月 8円、12月 8円)、年間利回り:1.5%(配当性向 13.3%)
配当は年利回り1.5%で、東証1部の単純平均1.71%(9/17時点) と比較し、少し低い水準です。
直近の配当金は、表4のようになっています。
決算期 | 1株当たり 年間配当金(円) | 配当性向(%) |
2016年12月期 | 20 | 90.5 |
2017年12月期 | 16 | 18.1 |
2018年12月期 | 18 | 11.5 |
2019年12月期 | 16 | 27.9 |
2020年12月期 | 10 | 15.1 |
配当性向は、2016年12月期は記念配がありましたのでこの年を除くと、15~30%程度と安定しています。
この会社は、
内部留保に意を用いながら将来的な株主価値の向上を目指していくとともに、安定的な配当を行うことを基本としています。
【株主優待制度】
当社は、株主優待制度があり、12月末時点の500株以上保有の株主に、
当社のヘアケア・スタイリング商品の中から合計5,000円以内で自由選択したものが贈呈されます(1,000株以上:7,000円以内、3,000株以上:12,000円以内)。こちらは、500株以上なので少しハードルが高いですが、うれしい内容ですね!
500株保有の場合の、配当金+株主優待(5,000円相当)は年利回り 2.4%になります。
【直近の株価動向】
<週足チャート(直近2年間)>
株価は、昨年のコロナショック時の安値(586円)から、ほぼ右肩上がりの上昇トレンドで推移しています。
<日足チャート(直近3か月間)>
直近の株価は、7/21に高値(1,450円)を付け、今2Qの決算と通期業績の上方修正した後、出来高を伴い急落しました。上方修正したにもかかわらず急落したのは、市場の期待以下の業績数値だったのでしょうか。
しかしその後は、徐々に値を戻しており、高値切り上げ安値切り上げの動きになっています。
今回の株式の売出発表の翌営業日(9/17)は、出来高は少し増えましたが、それほど株価に反応はなく20円安(-1.8%)でした。
まとめ
【業績】
- 今期2Q(2021年1月~2021年6月)の業績は、前年同期比 増収増益で、特に利益面は3倍以上の増益となっており好調。
- 通期予想に対する進捗率は、売上高はそこそこ、利益面は6割を超えており順調。
- 今期2Qの決算と同時に、通期業績と配当金を上方修正。2021年12月期上期(2021年1月~6月)は一部の事業分野で流通在庫の積み上げ等による想定以上の需要回復が見られ、加えて新規分野等での販売が伸長したことなどから当初計画に対し大幅な増収・増益だが、下期(2021年7月~12月)はコロナ禍の影響拡大や流通在庫の積み上げ一巡による需要減少が懸念されることに加え、原材料の高騰、活動費の一部増加が見込まている。これに伴い、年間配当も4円増配し年間16円へ。
【株主還元】
- 配当は年利回り1.5%で、東証1部の単純平均1.71%(9/17時点) と比較し、少し低い水準。
- 株主優待制度があり、500株以上保有が条件で少しハードルが高いが、5,000円相当のヘアケア・スタイリング商品がいただける。
【流動性・売出数量】
- 直近の出来高(売買が成立した株式の数量)の5日平均は256百株、25日平均は184百株と流動性は低い水準。
- 今回の株式の売出数量は、発行済み株式総数の約6.7%(OAを含めた最大の株数を含めると約7.7%)と、ほどほどに多い数量。
- 今回の大株主からの売出により、「流通株式時価総額」と「売買代金」を増加させ、来年4月からの「プライム市場」の上場基準適合に向けた取組むをすることを宣言している。将来的に、何らか基準適合への追加の対策がされれば、株価上昇の要因にもなる。
【株価モメンタム】
- 株価は、昨年のコロナショック時の安値(586円)から、現在は約1.9倍の値をつけて推移。
- 直近の株価は、今2Qの決算発表発表後に急落したあと、高値切り上げ安値切り上げの上昇基調で推移。
- 通期業績予想の上方修正にもかかわらず、株価が下落しすぎた感がある。今後見直しが入れば、緩やかに上昇の可能性あり。
- 今回の株式の売出を発表後、翌営業日の株価への反応はあまりなく20円安(-1.8%)だった。直近の安値(8/5:1,008円)を割り込まなければ、上昇基調の継続も十分ある。
以上のことから、
レベル(最低⭐~最高⭐⭐⭐⭐⭐) | |
業績 | ⭐⭐⭐⭐ |
配当、株主優待を含む株主還元 | ⭐⭐⭐ |
株価モメンタム | ⭐⭐⭐⭐ |
流動性 | ⭐⭐ |
株式の売出数量 | ⭐⭐⭐ |
総合判定 | ⭐⭐⭐⭐(買い) |
と判断しました。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。